E2239 – 大学の研究データサービス/研究インパクト指標<報告>

カレントアウェアネス-E

No.387 2020.03.12

 

 E2239

大学の研究データサービス/研究インパクト指標<報告>

九州大学附属図書館・宮﨑祐汰(みやざきゆうた)

 

 2019年12月5日及び6日,九州大学中央図書館において,九州大学統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻・附属図書館共同開催イベント,シンポジウム・ワークショップ「大学における研究データサービス」が開催された。同様に,12月9日,セミナー「研究インパクト指標」が開催された。本稿では,両イベントの内容について報告する。なお,両イベントの資料は九州大学学術情報リポジトリ(QIR)で公開されている。また,講演の一部については,九州大学のYouTubeチャンネルで公開されている。

 両イベントでは,米国・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校と本学との戦略的パートナーシップの一環として,先進的な研究データサービス(以下「RDS」)に取り組んでいる同大学図書館より3人を招聘した。本ワークショップは,RDSに関する実践形式のものとしては,日本で初めての取組みではないかと思われる。シンポジウムには66人,ワークショップには40人,セミナーには36人が参加した。各日とも,活発な議論・質疑応答がなされ,有意義なイベントとなった。

●シンポジウム

・講演1「イリノイ大学図書館における研究データサービス」(イリノイ大学図書館リサーチデータサービス部門長・イムカー(Heidi Imker)氏)
 イリノイ大学図書館におけるRDSのサービス領域は,知識(メールマガジンを発行するなど),相談(公開すべきデータについて研究者に助言をするなど),レビュー(データマネジメントプラン(DMP)のためのテンプレートやツールを提供するなど),ワークショップ(データマネジメント教育を行う),データ公開(イリノイ・データ・バンクというデータ公開プラットフォームを提供している)である。それぞれの領域について,サービスの利用者からのフィードバックを紹介しながら,具体的な説明がなされた。

・講演2「研究者に対するデータマネジメントサポートの実践」(イリノイ大学工学図書館長・ミショー(William H. Mischo)氏,イリノイ大学図書館化学・物理専門図書館・シュレンバック(Mary C. Schlembach)氏)
 イリノイ大学図書館におけるデータマネジメント教育の具体的な内容は,次の通りである。教育を行う図書館員は,事前にチェックリストに記入して,教育対象グループの情報(教員の情報,教員による出版物の情報,教員が得た助成の情報)を把握する。そして,6段階のデータ処理(収集過程,準備と操作,入力と変換,加工と操作,出力と解釈,保管とキュレーション)について教えている。特に重点をおいているのは,データの組織化,文書化(Readmeファイルの作成など),保管とバックアップなどである。また,DMPツールや,リポジトリなどの成果提供ツールの利用についても強調している。

 なお,シンポジウムの最後に行われたパネルディスカッションのための情報提供として,講演3「研究データ管理・オープンデータに関する日本の状況と課題」(九州大学附属図書館副館長・理系図書館長・冨浦洋一氏)も行われた。

●ワークショップ(イムカー氏,ミショー氏,シュレンバック氏)

 セッション1から3まで行われ,各セッションとも,イムカー氏による導入ののち,班ごとに実習に取り組んだ。

・セッション1:研究データとは
 一様ではない研究データの定義が紹介されたのち,研究データの具体例を確認した。実習では,論文を一つ選び,その論文における根拠データは何か,論文中の図表のデータとしての再利用可能性について議論した。

・セッション2:学術雑誌におけるデータポリシー
 オープンリサーチのための,データの透明性・公開性について定めた,Transparency and Openness Promotion(TOP)ガイドラインの,データの透明性に関する部分が解説されたのち,いくつかのジャーナルのポリシーを確認した。実習では,ジャーナルのポリシーを一つ選び,それを実施又は遵守する際に出版者や著者が直面する課題などについて議論した。

・セッション3:データキュレーションチェックリスト
 イリノイ大学図書館におけるデータキュレーションのワークフローと,データキュレーションを充実させるために,機関間でスタッフを共有する,データキュレーションネットワークという取組み,そして,そこで用いられているチェックリストについて紹介された。実習では,模擬データセットとこのチェックリストを用いて,データをチェックし,当該データを再利用する際の問題点などについて議論した。

●セミナー「研究インパクト指標」(ミショー氏,シュレンバック氏)

 既存の研究インパクト指標(以下「指標」)の問題性(研究業績を論文などの数や引用率のみで評価することの是非など)が示されたのち,イリノイ大学図書館が,既存の指標よりも,より柔軟で,より公正であることを目指して,独自に開発している指標が紹介された。これは視覚化されており,特許件数や助成件数をも評価要素として採用している。現在,各評価要素の重みづけを試行錯誤している段階だという。

●所感

 出版社が論文の根拠データの公開を要求している。政府機関や助成機関がイノベーションのためにオープンデータを推奨している。こうした世界的な動向に鑑みれば,今後,大学図書館におけるRDSの重要性がいや増すことは想像に難くない。他方で,日本においては,RDSの体制を整えようにも,専門知識を持つ人材が圧倒的に不足している。人材育成や体制整備のための資金を得ることも容易ではない。こうした苦況の中で,図書館員はどうすれば良いのか。議論や質疑の中でしばしば現れたのは,このような不安であった。しかし,先進的事例に学びながら,なんとかしてRDSを実現してみせようと意気込んだ図書館員も多かったのではないだろうか。また,指標開発の取組みを含め,図書館員が活躍しうる領域の多彩さを認識する良い機会となったのではないだろうか。

Ref:
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/20191205
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/20191209
https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/news/30935
http://hdl.handle.net/2324/2547228
http://hdl.handle.net/2324/2547229
https://youtu.be/1PM0iZ1bjgU
https://youtu.be/MDunD0PLqV0
https://www.library.illinois.edu/rds/
https://cos.io/top/
https://datacurationnetwork.org/

 

 

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