E2103 – 呉市における議会図書室発の政策形成力の強化

カレントアウェアネス-E

No.363 2019.02.14

 

 E2103

呉市における議会図書室発の政策形成力の強化

 

●文部科学大臣賞の受賞

 呉市議会図書室(広島県;E1882参照)は,議員をメインターゲットとした図書室だが,議員だけでなく市役所職員(以下「職員」)からのレファレンス依頼も受け付けている。2018年10月30日,第20回図書館総合展で開催された「地方創生レファレンス大賞最終審査・授賞発表」にて,呉市議会図書室が携わった取組が評価され,文部科学大臣賞という栄誉ある賞を受賞できた。議会図書室としての取組のほか,実際に議員からのレファレンス依頼から議会質問につながった事例や,職員からのレファレンス依頼により産業分野の政策支援につながった事例を発表した。

●発表事例

 議員からのレファレンス依頼は,視覚・聴覚障がい者への支援とDMO(地域と協働して観光地づくりを行う法人)についてであった。前者では,人手不足になっていく今後を考え,ICTを使った先進事例,例えば兵庫県明石市の手話対応型電話ボックスなど,様々な先進事例を紹介した。事例収集には,新聞記事検索のデータベースや自治体最新情報が検索できるデータベース,『月刊ガバナンス』や『日経グローカル』などの雑誌から該当情報を探すなどを行った。後者では,短時間で基本から押さえたいということもあり,議会図書室所蔵資料から,日本のDMO第一人者とされる高橋一夫氏の『日経グローカル』連載記事「観光DMOの生かし方」で基本情報を,その他必要なところは信頼性の高い実務書『日本政策投資銀行 Business Research 観光DMO設計・運営のポイント』等を案内した。

 職員からのレファレンス依頼は,呉市の起業件数の少なさ,商店街の空き店舗率の高さを併せて何とかしたいため何か参考資料が欲しいという内容であった。相談の中で出た起業コンテストに関係する資料や,指出一正著『ぼくらは地方で幸せを見つける』等の商店街再生に関する図書,『月刊ガバナンス』の記事から島根県江津市などの商店街を再生している事例,補助金に頼らない実施例として清水義次著『リノベーションまちづくり』等,この他に県内で進められているリノベーションに関する新聞記事も併せて紹介した。前者は呉市の弱点を改善する起業家支援プロジェクトとして実現し,後者もリノベーションまちづくり(遊休化した不動産をリノベーションすることによって,まちの魅力やにぎわいを生み出し,まちの課題を解決することを目指す取組)として動き始めている。

●その他の取組

 2016年の第11回マニフェスト大賞優秀成果賞受賞以後の取組として,呉市議会図書室情報紙『チャージ』のリニューアルや,専門図書館協議会(以下「専図協」)への加盟がある。初期の『チャージ』は,新規購入図書の紹介だけであったが,2017年から徐々に形態を変更していった。見やすいデザイン,キャッチーな見出しを意識するなど,興味を持ってもらうことを考え作成している。現在は1,2か月に1回の発信ペースで,最新事例や取組,面白い情報などを数ページ設けており,そこから議員からの問い合わせを受けたり,議員の視察資料としても利用されたりしている。同じく2017年に加盟した専図協では,司書である筆者が研修等に参加し,参加館の司書や職員と交流を持ち情報交換を行っている。

●課題

 課題は2点ある。1点目として,市政課題について「土地勘」を得るための勉強が必要なことである。配属当初,レファレンスサービスへの要求水準や依頼内容に非常に当惑した。忙しい議員からの依頼は急なことが多く,また即時対応を求められることもある。議会の審議案件や議会運営等,実務に関する基礎知識を身につけていなければ,即時対応どころか議員の意図をつかむことすら困難であり,レファレンス自体がより困難となる。今まで興味のなかった世界でも,この土台作りによって世界が広がり,レファレンスサービスや業務の幅も広がった。これからも日々研鑽していくことが重要である。

 もう1点は,人も資料費も限られているため,大学などの大規模図書館からの協力が欠かせないことである。また,他館の司書とのコミュニケーションも重要と考える。司書が筆者1人のみの「ワンパーソンライブラリー」なので,調べ方や調べる内容・方向性など,いくら気を付けていても偏りが出ていると感じる。様々な角度から情報提供を行うためには,自分以外の司書のアドバイスや調べ方を参考にしていきたい。

●展望

 今回発表した事例やこの度の賞を受賞したことにより,「政策づくりの分野でも,司書のチカラは役立つ」という手応えを得たことは非常に大きな成果であった。そして,議会質問に限らず,産業振興など様々な市政課題にも広げていくことが可能だという自信にもつながった。

 良い政策ができれば,呉市の明るい未来につながり,ひいては市民の笑顔にもつながる。呉市の政策づくりのあり方が変わるそのきっかけの一つとしての議会図書室という「知的拠点」を目指し,今後さらなる進化をしていきたい。

呉市議会図書室・重森貴菜

Ref:
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I029321930-00
https://www.libraryfair.jp/news/8303
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/news/2018pr_kurecity_council.pdf
E1882
CA1794