E1882 – 「強い議会」を支える「使える」議会図書室をつくる

カレントアウェアネス-E

No.319 2017.02.09

 

 E1882

「強い議会」を支える「使える」議会図書室をつくる

 

   2016年10月5日,広島県呉市議会がかねてから取り組んできた議会図書室改革が評価され,第11回マニフェスト大賞優秀成果賞を受賞した。マニフェスト大賞とは,地方行政や地方議会の優れた取り組みを表彰するもので,本議会については,特に議会図書室における常駐の司書の配置,議員への積極的な情報提供,公立及び大学図書館との連携の取り組みが評価された。

〇経緯

   本議会図書室については,呉市議会基本条例において「適正に管理し,運営するとともに,その機能の強化に努める」こととしているものの,以前は「物置」状態だった。そこで,議会事務局においては,市役所新庁舎建設を契機に,議会図書室の充実を図るために2014年度にプロジェクトチームを設置し,先進的な取り組みを行なっている鳥取県議会図書室,鳥取県庁内図書室,鳥羽市議会図書室(三重県)などを視察した。

   一方,議員においても,2015年5月に石元成議長が就任した後,議会運営委員会が「「強い議会」を支える議会図書室の機能強化」を議会改革の重点項目に挙げ,先進的な取り組みを行っている三重県議会図書室,日野市市政図書室(東京都)の視察を行った。ここでいう「強い議会」とは,活発に意見を交わした上で大局的に判断して結論を導き,その結論をもとに議会が団結して市長と対峙していくものである。

〇取り組みの概要

   議会事務局では,議会図書室の充実に当たり,各地で議会図書室の研修を実施されている国立国会図書館の塚田洋氏から助言をいただきながら,先進地の事例を取り入れつつ,できることから一つずつ取り組んできた。塚田氏が掲げる「一般質問に使える議会図書室」(CA1794参照)をキーワードに,これまで取り組んできた主な内容は次のとおりである。

  • 議員への積極的な情報提供…新着図書や各地の先進的な政策を紹介する議会図書室情報紙の発行(2014年11月から),一般質問に「使える」特集棚(例:子どもの貧困,働き方改革)の図書室内への設置(2015年5月から),議員ごとに設定したキーワードをもとに,関連する新聞記事や図書などの情報を送信する議員個別メール情報提供サービスの実施(2016年10月から)など
  • 他の図書館との連携…図書貸出・レファレンスサービス面における呉市立・広島県立図書館との連携(2015年11月から),広島修道大学図書館との連携(2016年8月から。大学図書館との連携は,大津市議会と龍谷大学図書館の連携(E1802参照)に次いで全国で2例目)
  • レファレンスサービスの強化…常駐の司書の配置(2016年4月から)
〇司書が介在することによるレファレンス機能の向上

   議会図書室の充実に当たって,最も力を入れたのは,本市と同等の規模の地方公共団体ではほとんど例がない,常駐の司書の配置である。

   常駐の司書を配置したねらいは,議員や事務局職員が持ち得ない広い視野での司書の情報収集力を,議員の一般質問や政策形成に生かすため,さらには,公立及び大学図書館との連携という調査のための基盤を十分に活用するためである。司書採用に当たっては,専門図書館協議会による広報の協力を得たほか,面接の質問項目について塚田氏や九州経済調査協会のビジネスライブラリーBIZCOLIの助言を受けることにより,大学図書館での勤務経験もある優秀な司書1名を嘱託職員として採用することができた。

   市立・県立図書館との連携については,両館が有する豊富な蔵書と経験豊富な司書という本市議会が持ち合わせていないリソースをもとに,全面的に支援していただいている。特に議員からのレファレンスへの回答に必要な有料データベースでの調査の依頼や特集棚の図書の借り受けに際しては,市立・県立図書館の司書を介して両館をフル活用している。また,案件によっては,議会図書室の司書が両館に直接出向いて調査を行うことによって,両館の司書と「顔の見える」関係を構築している。

   大学図書館との連携では,塚田氏の助言により,さらに専門性の高いレファレンス対応を目指し,広島市内にある広島修道大学図書館との連携を行った。本市から遠い同館を連携先に選んだ理由は,法学部・経済学部・商学部が設置されていることにより,蔵書の約5割が議会審議に関連性の高い社会科学分野の資料となっており,学生や教員からのレファレンス内容も同分野のものが多いことが考えられたためである。

   リソースが乏しい議会図書室において,レファレンスに必要な基盤を構築するために,上述のような他機関との連携が必須であるが,一方で,司書の能力の向上も欠かせない。そのためには,議会図書室の司書は,一般的な司書としての能力に加え,市政や議会の運営方法や,市政の重要課題の理解といった市政への「土地勘」を磨くことが必要である。

   そこで,本議会の司書は,以下の取り組みを行なっている。第1に,市政に関するレファレンス対応の経験を積むために,議員や事務局職員だけでなく,市役所の執行部職員へのレファレンス対応も行っている。第2に,事務局に併設されている無人の市政資料室の資料を把握し,レファレンスに活用するため,同室の書架を管理している。第3に,議会での議論の背景や進捗状況を把握するため,本会議・委員会を傍聴するとともに,過去4年間の本会議・委員会の会議録を読み込んでいる。第4に,市が行っている事業全体を理解するため,市の総合計画をはじめとした各種計画の理解に努めている。以上の4つの取り組みを通じ,本議会の司書は,市政への「土地勘」を磨いている。

〇改革の成果

   改革の成果であるが,2016年12月定例会において一般質問を行った議員12名中7名が議会図書室のレファレンスを活用するようになった。また,委員会の質疑や各委員会が所管する事務の調査,視察調査先の選定にも議会図書室が活用されている。なお,司書を配置した2016年4月以降,議会図書室を利用した議員は32名中28名にも及んでいる。

〇今後の方向性

   今後は,民間を含む調査研究機関をはじめとした専門機関との連携によるレファレンスの回答内容の専門性のさらなる向上,専門図書館協議会が実施する研修への参加を通した司書の持続的なスキル向上により,さらに「使える」議会図書室を目指していきたい。

呉市議会事務局・久保善裕

Ref:
https://www.city.kure.lg.jp/site/gikai/
http://www.local-manifesto.jp/manifestoaward/docs/2016100400013/
http://www.local-manifesto.jp/manifestoaward/docs/2016111100018/files/2016_kouhyo.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2013/2/08.html
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008798555
http://www.city.toba.mie.jp/gikai-shomu/documents/h25_8pressrelease.pdf
http://www.dh-giin.com/article/20150110/4445/
E1802
CA1794