カレントアウェアネス-E
No.305 2016.06.16
E1806
R.E.A.D.:ドクタードッグへの絵本の読み聞かせ
1999年に米国ではじまった,図書館で子どもたちが犬に読み聞かせをするR.E.A.D.(Reading Education Assistance Dogs)プログラムを知ったきっかけは,『読書介助犬オリビア』(講談社,2009)だった。この本では例えば授業で本を読むとき,訛りや吃音を笑われて人前で読むのが苦手になった子どもや,人と会話することに慣れていない子どもが,訓練を受けた読書介助犬(以下ドクタードッグ)に繰り返し本を読んで聞かせることで苦手意識を克服し,自信をつけることができたという事例が紹介されている。犬たちは本読みの不出来を指摘することなく,じっと耳を傾け,子どもたちを励ましてくれるからである。加えて,子どもたちの読書への興味・関心が格段に高まったということも示されている。これを読んで筆者の所属する,司書課程500名の学生を擁する武庫川女子大学でもR.E.A.D.プログラムを実践し,司書を目指す学生たちに体験してもらいたいと思った。
そして2014年11月,兵庫県の西宮市立鳴尾図書館で「ドクタードッグといっしょにおはなし会」という企画を実施された話を伺い,思いがけずドクタードッグの養成を行っている団体が本学と同じ西宮市内に存在することがわかった。これがNPO法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(以下PFLJ)の方々との出会いであった。鳴尾図書館での「おはなし会」は,子どもが犬に読み聞かせをするのではなく,子どもと犬が一緒にお話を聞くというものだった。それだけでも読書習慣化へのきっかけづくりとなることが期待できるが,実際にR.E.A.D.プログラムを実施したい旨をPFLJ事務局に伝えると快諾してくださり,本学の司書課程の授業「図書館サービス特論」の中で取り組むことになった。
「図書館サービス特論」は,半期に1度開講される集中講義で,全15コマを4日間で履修する選択必修科目である。当日を迎えるまでの準備は本学の司書が担当し,当日の進行は学生たちが行った。犬が苦手な子どもに配慮して自由参加の課外活動とし,1回目(前期)は本学附属幼稚園の年長クラスを,2回目(後期)は西宮市立鳴尾小学校1,2年生を対象に,各々教諭を介してR.E.A.D.プログラムのチラシを配布してもらった。参加申込みの受付は,園児は幼稚園事務室,小学生は本学図書館事務室が担い,保護者が直接事務室へ申し込むようにし,当日は保護者の同伴を必須とした。ドクタードッグのストレスを考慮し,子どもの参加は先着20名までとし,参加者へは自身が読み聞かせをするためのお気に入りの絵本1冊以上を持参するように伝えた。なお,当日絵本を忘れた子どもを想定し,あらかじめ本学図書館でもお薦めの絵本を用意した。
司書課程の学生たちには,事前に本学の司書が読み聞かせの方法を指導した。学生同士でも読み聞かせを行い,得意な学生を子どもたちが読み聞かせをする際の指導役に選んだ。普段は聞く側の子どもたちが,ドクタードッグに読み聞かせをしなければならないことから,まず指導役の学生が手本を示し,子どもたちの緊張を優しくほぐすようにしてもらった。その他,学生たちで当日の受付,司会進行,記録などの役割を分担してもらった。
本番当日。司会進行がR.E.A.D.プログラムの趣旨を説明し,ドクタードッグを1匹ずつ紹介すると,子どもたちから歓声があがった。学生が先導しながら犬1匹と子ども4~5名でグループを作り,1人ずつ順番に読み聞かせをした。最初は照れくさそうな子どもがほとんどだが,慣れてくると表情が笑顔でいっぱいになり,一所懸命にドクタードッグへ読み聞かせをしていた。あっという間に1時間が経過し,名残惜しそうにしている子どもたちを見送ったあとは,控室でドクタードッグを労った。この時点で,仕事に集中していたドクタードッグは疲労気味だったが,飼い主からご褒美のお菓子や飲みものをもらい,犬好きな学生たちに褒め称えられると非常に嬉しそうだった。PFLJの方々とドクタードッグたちを見送った後,次回の開催に向けて学生たちとイベント全体を振り返り,改善点を洗い出した。例えば1回目の読み聞かせのときは,PFLJのご厚意により無償で対応していただいたが,今後もこの取組を継続して行いたいと考えたことから,2回目では有償ボランティアとしての対応を依頼した。具体的にはドクタードッグ1匹当たり5,000円を支払うこととした。
そして,本学図書館のホームページで実施報告を掲載したことにより,各種マスメディアに採り上げられ,取材に応じた子どもは「恥ずかしかったけど,ワンちゃんが聞いてくれるので頑張れた」と息を弾ませ,保護者からは「このような読み聞かせを定期的にやってほしい」など,参加者全員から喜びの声が聞かれた。
現在,各所で活躍しているドクタードッグの中には,動物愛護センターで殺処分寸前だった犬もいる。飼い主と出会ってたくさんの愛情を受け,その恩返しをするかのように,あるいは使命感に燃えて子どもたちの声に耳を傾けるドクタードッグの姿に,筆者たちも癒された。今後もR.E.A.D.プログラムを継続して実施していきたい。
武庫川女子大学・川崎安子
Ref:
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010565095-00
http://www.therapyanimals.org/R.E.A.D.html
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/kancho/story49.html
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/kancho/story56.html
http://www.pflj.org/activity/doctor/index.html
http://www.sankei.com/west/news/150819/wst1508190038-n1.html
http://www.mukogawa-u.ac.jp/~library/shisyo/2015_04.html
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/09/03/1361417_04.pdf
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