E1816 – Access to Researchの2年(英国)<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.306 2016.06.30

 

 E1816

Access to Researchの2年(英国)<文献紹介>

 

Jonathan Griffin. “Access to Research”: how UK public libraries are offering access to over 15 million academic articles for free. Interlending & Document Supply. 2016, 44(2), p. 37-43.

 英国研究情報ネットワーク(RIN)の「研究成果へのアクセス拡大に関するワーキンググループ」が2012年6月に公表した「Finchレポート」では,学術出版社が,公共図書館の利用者に,学術文献への無償でのアクセスを提供するよう求めている。それを受け,英国の出版社団体であるPublishers Licensing Society(PLS)が中心となって,公共図書館にオンラインの学術文献150万件を無償で提供する2年間のパイロットプロジェクト“Access to Research”(A2R)を開始したのは2014年1月のことであった(E1534参照)。

 PLSは,プロジェクトの試行期間を終えるにあたり,その継続の可否を判断する参考資料とするため,イングランド芸術評議会(ACE)からの助言や財政支援を受け,利用者,公共図書館の職員などを対象に調査を実施した。今回紹介する文献は,プロジェクトの内容や調査結果の概要を解説したものである。

 プロジェクトの実施にあたって,PLSは,必要な経費・人員を提供するとともに,図書館・出版社双方が合意可能な契約文書を策定し,学術出版社や,国内206の全図書館行政庁に対してプロジェクトへの参加交渉を行なった。学術出版社との契約は,利用可能な文献のリストや期間の設定ができ,いつでも退会可能という内容で,2年間で19の学術出版社がプロジェクトに参加している。また,182の図書館行政庁がプロジェクトへの参加を表明し,約2,500の公共図書館でA2Rの利用が可能となっている。

 利用者を分析すると,所得・性別・民族といった面での特徴は見出せないものの,一般の図書館利用者と比べて高齢者・無職の割合が多く,また,高学歴層の割合も高い。次に,上位500位の検索語の解析からは,幅広い分野(歴史・考古34%,健康・生命・医学31%,社会科学28%,法律・政治・行政21%,哲学・宗教19%)で用いられていることがわかった。利用目的に関する調査では,「調査研究のため」(55%),「個人的な関心」(53%)の利用が多く,「ビジネスのため」(26%)が続く。A2Rのサービス内容に関しては,利用者はおおむね好意的に評価し,調査では90%が,同サービスで得た情報は有益であったと答えている。

 次に,公共図書館の職員を対象とした調査では,A2Rを利用者に積極的に紹介したい職員(42%)や,普及・支援が自身の役割であると考えている職員(19%)がいる一方,利用者への紹介が消極的である職員(24%)や,サービス内容を理解していない職員(13%)が存在することが判明した。また,利用者を支援したかという質問に対して,52%の職員が支援していないと回答しており,支援したとの回答の大半も,サービスが利用できると伝えただけであったことが明らかになった。利用者を対象としたアンケート調査でも,「サービスを利用する際,職員から案内や支援があったか?」という設問に対して「なかった」と回答した人の割合は68%であり,職員による利用者支援が不十分である実態が垣間見える。その背景として,プロジェクトの責任者でもある本文献の著者は,サービスの普及を目的に国内各地で実施している研修やウェビナー(ウェブセミナー)を受講している職員が少ない(27%)ことが影響していると指摘する。実際,約半数にあたる職員(42%)は,プロジェクトの進展のためには,普及・宣伝活動よりも,研修の充実が必要であると述べている。

 PLSは,調査結果を受け,2016年1月,毎年内容を見直すことを条件に,プロジェクトを継続すると発表した。継続にあたって,以下の3点が今後の課題として指摘されている。1点目は,普及のための公共図書館向けガイドラインの策定である。策定の参考とするため,試行期間中に利用が多かった8の図書館行政庁とともにワークショップを開催している。2点目は,利用可能なコンテンツの拡充である。PLSは,既に,参加する出版社の拡大に向け,プロモーション活動を開始している。3点目には,利用可能な文献を同定できるなど,利便性の向上を図るため,広報用ウェブサイトとProQuest社のSummon(CA1772参照)を活用した検索用インタフェースとを統合することを挙げている。

 2年間での利用者数は,8万8,870人と報告されている。大学図書館での利用に比べればまだまだ少ない。図書館行政庁へ働きかけたことにより,多くの公共図書館で利用できるようになったが,図書館職員や住民の認知度はまだ低いようである。また,オープンアクセスを支持する人々からは,図書館の利用者数が減少し,図書館の閉鎖が相次ぐ英国において(E1269参照),自宅のコンピュータから直接閲覧できないようなプロジェクトでは不十分であるとの批判もある。継続が決まった同プロジェクトの,今後の展開に注目していきたい。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://dx.doi.org/10.1108/ILDS-03-2016-0012
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/32493/12-975-letter-government-response-to-finch-report-research-publications.pdf
http://www.accesstoresearch.org.uk/
http://www.pls.org.uk/media/199841/Access-to-Research-final-report-Oct-2015.pdf
http://www.pls.org.uk/news-events/n-access-to-research-given-green-light-to-continue-070116/
https://www.timeshighereducation.com/news/publishers-launch-free-journal-access-for-libraries/2010999.article
E1534
E1269
CA1772