カレントアウェアネス-E
No.273 2014.12.24
E1640
これからの福島の図書館を考える<報告>
2014年11月6日,第16回図書館総合展(パシフィコ横浜)においてフォーラム「これからの福島の図書館を考える」が開催された。第1部「福島県における図書館の今」では,震災直後から今までの状況を振り返ることで,情報拠点としての図書館の役割を改めて考える機会とすることを趣旨に,震災後,図書館はどのような情報を必要とし,あるいは必要とされたのか,また,自治体復興の中で,新たな段階を迎えた住民生活に対し,図書館が取り組むべきことは何であるのか等について筆者が報告を行った。第2部「避難指定区域の住民を受け入れている自治体の図書館について」では,原発事故等による避難住民を多数受け入れている会津若松市といわき市から避難者支援の事例が報告され,図書館サービスの実状や,そこから見えた課題についてシンポジウムが行われた。
●第1部における報告要旨
震災からの復興過程の中で,重要なキーワードとなるものとしてまずは,4つの「情報」がある。1つ目は状況を知るための行政との連絡情報である。震災直後の動きに大きく作用した。2つ目は他館の被災情報である。図書館ネットワークの再開に必要とされた。3つ目は自館の情報である。開・閉館の情報発信は住民の生活に影響した。4つ目は現在も進行しているが震災の記録としての情報である。
次に避難状況であるが,現在12万人の県民が避難を続けている。その状況は,2012年10月の統計をピークに減少しているが,特に注目したいのは避難児童の数である。全体の避難者数は県外避難より県内避難が多いのに対し,児童だけを抜き出してみるとその数字は逆転する。これは,県内図書館の利用状況にも少なからず影響を与えているものと考える。また,最近では除染などの環境整備も進み,避難住民の新たな動きが始まっている。特に避難指示区域の近傍にあるいわき市にあっては,人口流入が増加することが予想され,その支援の体制は,個々の来館者への直接サービスから自治体支援へと変化する可能性がある。
復興庁の調査によると,帰還困難区域の大熊町や双葉町では,6割以上の住民が戻らないとしており,その理由として4分の1が教育機関への不安をあげている。明確に図書館とは触れられていないが,学校の再開と同様に,図書館の再開意義は大きいものがあると推察する。避難自治体については,教育委員会への調査(筆者聞き取り)によると,自治体復興計画の中に図書館事業は含まれておらず,図書館の再開については現状白紙というのが実態であるが,被災資料のレスキューや,現在滞っている資料収集の補完等検討すべき事は山積している。
●第2部の概要
主に大熊町からの避難者を受け入れている会津若松市立会津図書館からは,避難者への資料の個人貸出の実施と住所確認の簡易化,避難所への資料提供,大熊町小・中学校による同館の見学や職場体験等の授業での活用受入について報告があった。特に,大熊小学校による図書館を使った調べる学習への取り組みは大きな成果を上げている。
いわき市立いわき総合図書館からは,震災に伴い,図書館サービスの拡大として実施した避難関連登録を,避難者に限定するのではなく,ボランティア等の支援者や,原子力発電所関連の作業者にまで広げた事例や,避難当該自治体への広報活動について報告があった。
シンポジウムの中では,両市とも,震災以前から持っていた広域サービスに対する意識の高さと活動の素地が,スムーズな避難住民の受入につながったのではないかとする意見があった。また,第1部で筆者が指摘した,避難者の動向に即した対応が課題としてあげられた。事実,他地区からいわき市への流入は増える傾向にあり,逆に会津若松市では減少していくことが考えられている。今後は,地域の公共図書館が主体となり,福島県立図書館が行う支援事業と連携したり,あるいはその業務を引き継いだりなど,避難者に近い支援が望まれると総括して閉会した。
福島県立図書館・吉田和紀
Ref:
http://2014.libraryfair.jp/node/2119
http://2014.libraryfair.jp/node/2120
https://www.youtube.com/watch?v=QIu0JPNhe9Y&list=PL55Oy-s4o9z3JsYvGGKYr_ToKcu8b7j1&index=5
https://www.youtube.com/watch?v=y9SPBpaiEGY&list=PL55Oy-s4o9z3JsYVvGGKYr_ToKcu8b7j1&index=7