E1615

カレントアウェアネス-E

No268 2014.10.09

100周年を迎えた国立台湾図書館

　2014年8月，国立台湾図書館が開館100周年を迎えた。本稿では，同図書館の沿革や特色ある事業を紹介するとともに，100周年記念行事の様子にも触れたい。

　国立台湾図書館の前身は，日本統治期，「台湾総督府図書館官制」（1914 （大正3）年勅令第62号）により現在の台北市に設立された台湾総督府図書館である。第二次世界大戦後は「台湾省立台北図書館」「国立中央図書館台湾分館」など何度か名称と所属官署，住所を変え，2013年1月に「国立台湾図書館」に改称した。現在は行政院教育部に属し，台北市近郊の新北市に位置する。同図書館は，台湾に3館ある国立図書館の一つであり，資料の収集，整理，提供，保存と台湾学資料の研究推進を使命としている。納本図書館である台湾国家図書館，公共図書館の支援と電子図書館推進を主な任務とする国立公共情報図書館（国立公共資訊図書館）と並んで事業を展開している。

　国立台湾図書館の特色の一つは，戦前の日本関係資料を10万冊以上と豊富に所蔵していることである。台湾総督府図書館や日本の南進政策推進のため設立された財団法人南方資料館から引き継いだ資料には，官報や各種の調査報告書などの文書類，東南アジア関連の南方資料，『台湾日日新報』『台湾教育』などの逐次刊行物が含まれる。これらの資料や地方志などの中国語資料を元に，2007年には図書館内に台湾学研究センターを設立した。同センターでは資料を利用・提供すると同時に，雑誌『台湾学研究』などの出版や，台湾学関係の講座，シンポジウムの開催など，台湾学の発展を目的とした事業も実施している。

　所蔵資料のマイクロ化や電子化も，日本関係資料から開始された。現在は，雑誌約350タイトルを収録する「日本統治期雑誌全文画像システム」，図書約22,000冊を収録する「日本統治期図書全文画像システム」などのデータベースや，同館および他機関作成の台湾関係データベースを横断検索できる「台湾学電子資源総合検索システム」を提供している。

　その他の特色あるサービスとしては，「青少年資料室」「高齢者資料室」「多文化資料室」など利用者別の閲覧室や，資料保存のための「図書病院」を設置していることが挙げられる。「図書病院」では，資料の修復作業を行うだけでなく，資料修復研修の開催，ウェブサイト上で資料保存のノウハウや設備を紹介するなど，啓発事業も実施している。

　同図書館は次の4つのビジョンを掲げている。（1）公共図書館機能と研究　図書館機能を兼ね備えた国立図書館として社会教育と台湾学研究の発展に寄与する，（2）特色ある蔵書構築と資料保存事業により利用者の要求に応え，読書習慣を育む，（3）様々な利用者やマイノリティの情報要求に応え，アクセシビリティの保障と生涯学習を推進する，（4）図書館事業を通じて全国の公共図書館事業の継続と発展をリードする。前述の特色ある事業も，これらのビジョンに合致したものといえるだろう。

　同図書館では100周年を記念して様々な企画を実施しており，ウェブサイトの特設ページで概要を見ることができる。貴重資料100点を選んだ特別展「百蔵・台湾」，台湾語や日本語，原住民族（注）の言語など，台湾で使用されてきた多様な言語をテーマとした「言葉の記録－言語関係図書展」，国立台湾図書館の歴史をたどる「唯読100年－国立台湾図書館史特別展」など複数の展示会を開催したり，100周年記念特別仕様の利用者カードを発行したりしている。また，8月9日の記念式典では，100周年記念切手の発行が発表された。切手のデザインは台湾総督府図書館と現在の国立台湾図書館の写真を配したものである。

　さらに，11月には国際シンポジウム「未来の図書館」を開催する。シンポジウムでは，利用者サービスや障害者サービス，他の業界との連携などをテーマとするプログラムがあり，台湾の図書館関係者のほか，英国の公共図書館「アイディアストア（CA1441参照）」の運営責任者セルジオ・ドリアーニ氏，米国議会図書館障害者サービス主任のカレン・カニンガー氏などの登壇が予定されている。

　台湾では，2013年に台湾国家図書館が80周年（E1436参照），国立公共情報図書館が90周年と，国立図書館3館が相次いで節目を迎えている。今後も台湾の図書館の動向に注目したい。

関西館アジア情報課・水流添真紀

注：「原住民（族）」は，台湾では，憲法（中華民国憲法第10条）でも使用されている一般的な表記である。

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