E1600 – 電子書籍サービスで変わる大学図書館の業務と展望<報告>

カレントアウェアネス-E

No.265 2014.08.28

 

 E1600

電子書籍サービスで変わる大学図書館の業務と展望<報告>

 

 2014年6月26日と27日の両日,オーストラリアのブリスベンにおいて,アジア・オセアニアの大学図書館員や研究者を対象に,エルゼビア社主催のeBooks Forum 2014が開催された。今回はChallenging the “norm”? Future Directions for eBooks(“規範”への挑戦:電子書籍の将来展望)をテーマに,日本,オーストラリア,ニュージーランド,カナダの大学図書館の事例報告や,エルゼビア社による取り組みの説明が行われた。本稿では,利用者のリクエストによって購入を決定するPDA/DDA(CA1777,E1310参照)による電子書籍のコレクション構築,および電子書籍の発見可能性(discoverability)とディスカバリーサービス(CA1772,E1563参照)について紹介する。

 

1. PDA/DDAによる効率的なコレクション構築

 電子書籍のコレクション構築に関して,PDA/DDAを導入しているオーストラリアのスインバン工科大学,ニュージーランドのオタゴ大学,カナダのオタワ大学から報告があった。

 スインバン工科大学では,DDAで自動購入された電子書籍は,図書館員によって選書された電子書籍よりも利用が多いことが報告された。同大学では,目録に登録されたDDAのタイトルが4回貸出された時点で自動購入しているが,購入後の平均貸出回数は,自動購入分が6.67回(購入前の貸出を含めると9.67回)であるのに対して,図書館員による選書分は2.57回であるという。

 オタゴ大学からは,PDAにおけるリクエストは,人文学分野のものが多いことが報告された。同大学では,STM分野の出版社によるコレクションの利用が多いが,4か月間のPDAトライアルでリクエストされたタイトルについては人文学が最も多く(40%),次いで自然科学分野(24%),健康科学(14%)であったという。

 オタワ大学からは,2012年に行なったDDAの試験導入についての報告があった。目的は1990年代の予算不足により不充分だった歴史分野のコレクションの補完であり,試験期間中にディスカバリーインターフェースで利用可能とした5,982タイトルのうち,692タイトルを購入した。現在は,DDAを歴史,科学,技術分野で実施しており,毎月10から20タイトルを購入しているという。同大学の図書館員は,DDAやパッケージ契約によってコレクション構築の時間を削減して,かわりに教育や研究,革新的な図書館サービスの開発にあてる時間を増やすことができたという。実際,担当者(ordering clerks)による発注は2011年から26%減少しており,職員配置も再検討しているとのことだった。

 

2.発見可能性の向上とディスカバリーサービス

 電子書籍の発見可能性の向上は,フォーラム全体を通じた論点の一つであり,各大学の今後の課題として言及されていた。例えばオタゴ大学からは,発見可能性向上のための取り組みとして,適合度順出力やファセット表示の実装,購入資料のMARCレコードをナレッジベースに即時反映して遅滞なく利用できるようにしていることなどが紹介された。

 エルゼビア社からは,ScienceDirectの電子書籍に対するアクセス解析の結果が報告された。電子書籍へのアクセス元については「不明(unknown)」が1位となっているが,2位は図書館の蔵書目録やディスカバリーサービスであり,サーチエンジンを上回っている。そしてこれらのアクセス元から,48%は電子書籍のホームに,13%は章のページに到達する。これはサーチエンジンから論文に到達することが多い電子ジャーナルのアクセスパターンとは異なるという。また,電子書籍へのアクセス元について,2011年から2013年の経年変化をみると,GoogleやGoogle Scholarからのアクセスはほとんど変わらないが,ディスカバリーサービスからのアクセスは8倍以上に増えている。同社はこうした電子書籍へのアクセスの特徴をふまえてサードパーティにメタデータやフルテキストデータを提供して発見可能性の向上を目指しているという。

 

 今回紹介した大学は,ここ数年で電子書籍の予算やタイトル数を増強し,電子書籍に関する業務を通常の業務に統合しつつある。そして,電子書籍のコレクション構築にPDA/DDAを組み込むことによって効率的に利用者のニーズに応えていることや,特に人文科学分野で活用されていること,ディスカバリーサービスが発見可能性の向上に有効であることなどが示された。電子書籍サービスの導入や拡充に際しては,こうした知見が参考になるだろう。

筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為

Ref:
http://asia.elsevier.com/elsevierdnn/ElsevierAPACeBooksForum2014/tabid/2507/Default.aspx
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/4. Tony_Australia’s Case Study eBooks @Swinburne.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/5. Marilyn & Paula_ New Zealand’s Case stud – eBook evolution @ Otago.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/7. Katrine_eBooks Meet Opportunity – University of Ottawa Experience.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/6. Alistair_eBooks without Border – All about Discoverability.pdf
CA1772
CA1777
E1310
E1563