E1564 – 欧米の公共図書館による電子書籍貸出イニシアティブ調査報告

カレントアウェアネス-E

No.259 2014.05.22

 

 E1564 

欧米の公共図書館による電子書籍貸出イニシアティブ調査報告

 

 2013年12月,オーストラリア図書館協会(ALIA)は,ブリュッセルを拠点としてコンサルタント等を行っているCivic Agendaに対し,世界の図書館における電子書籍貸出の状況についての調査報告書を作成するよう委託した。オーストラリアの公共図書館は,電子書籍の貸出サービスを導入するにあたって,必要とされる基準を満たす電子書籍やプラットフォームの獲得に課題を抱えていた。2014年4月に発表された報告書“Elending Landscape Report2014”は同国の公共図書館の課題に対する現実的な解決に資するべく,カナダ,米国,欧州(デンマーク,オランダ,ノルウェー,スウェーデン)の図書館で行われている電子書籍貸出に係る9つのイニシアティブを取り上げ,その概要をまとめたものである。

 報告書ではそれぞれのイニシアティブについて,概要,背景にある動機と目的,図書館予算と商業市場の関係等の国内市場力学,適用範囲,長期間にわたる実行可能性と持続可能性の評価がまとめられている。その上で最終章では,イニシアティブに見られた特徴を取り上げ,オーストラリアの公共図書館におけるそれらの適用可能性についての考察がまとめられている。取り上げられている特徴は以下の8点である。(1)図書館によるデジタルコンテンツプラットフォームを開発しコンテンツを所有する,(2)デジタルコンテンツ購入に国(あるいは州)の予算を割り当てる,(3)革新的な試験的プロジェクトを行うために団体でアグリゲーターと交渉する,(4)法的枠組み内で,“拡張された集中許諾”(Extended Collective Licensing:ECL)を導入する,(5)製品ではなくサービスとして電子書籍にアクセスする,(6)貸出インターフェースに購入を案内する“Buy Now”オプションをつける,(7)国内出版社の既刊本の電子化を支援する,(8)人気タイトルの貸出を有料にする。例えば(1)は,すでに本誌でも紹介した米国の“ダグラス郡モデル”に見られた特徴である(E1363参照)。本稿では欧州各国のイニシアティブに見られた特徴から4点を取り上げて紹介する。

  • デジタルコンテンツ購入に国(あるいは州)の予算を割り当てる

 オランダでは,中央政府がデジタル図書館のプログラムに資金を提供している。2014年1月から,そのプログラムの1つとして電子書籍の貸出サービスが開始されている。オランダの出版社50社の5,000タイトルの電子書籍が利用可能となっている。また2015年1月には,新しい法律が施行され,公共図書館による電子書籍の購入費として1,500万ユーロ規模の予算が新たに見込まれるようである。個別の図書館では追加予算なしに,電子書籍の貸出を行うことができる。報告書では,このモデルのオーストラリアへの適用可能性に関しては,現在の緊縮財政の風潮等から,簡単ではないと述べられている。

  • 法的枠組み内でECLを導入する

 ノルウェーでは,ノルウェー国立図書館が2000年以前に出版された著作物を電子化し,ノルウェーのIPアドレスであれば無料で利用できる契約を著作権管理団体であるKopinorと交わした。このモデルはECL,すなわち著作権管理団体に対してライセンス料を払うことで個別の著作権者との交渉なしに利用を可能にするという仕組み(E1256CA1771参照)によるものであり,ノルウェーの全ての出版社や著作者あるいは孤児著作物に適用される。報告書では,ECLの法的枠組みは,スカンジナビアと北欧において,権利者や出版者,著作者とのアクセス条件交渉に関する図書館の力を強めたが,このような枠組みが,様々な著作権の歴史と法的支配を持つ他の地域でも適用できるとは限らないと述べられている。

  • 製品ではなくサービスとして電子書籍にアクセスする

 スウェーデンのストックホルム公共図書館などでは,電子書籍をライセンスサービスとして利用している。電子書籍カタログから,利用者が電子書籍を借りると,支払いが発生する仕組みになっている。この仕組みであれば,図書館によるデジタルコレクションへの予算配分が利用者の要望とあわないという可能性を避けることができるとされている。報告書では,利用者のデジタルコンテンツに対する要望の増加に直面した時,限りある予算を広範囲のコンテンツに割り当て,特定のタイトルの貸出回数には制限をかける決定をする必要が生じるかもしれないこと,また,小規模図書館による独自の蔵書方針の決定を制限する可能性が高いことが指摘されている。

  • 国内出版社の既刊本の電子化を支援する

 デンマーク,スウェーデン,ノルウェー,オランダの図書館制度では,出版者の既刊本のデジタル化費用を図書館が肩代わりすることで,電子書籍貸出の権利を無料あるいは値下げする交渉を行っている。報告書では,英語圏の市場で経営する出版社はより広い経済圏や販売地域から利益を得ているため,この支援による図書館の影響力は小さいと述べられている。

 このように報告書では,オーストラリアへの適用可能性を念頭に置き,政治や文化,言語,経済などの環境が異なるイニシアティブが幅広く取り上げられている。そしてまとめ部分においては,他国の取組がそのまま適応できるものでないことを指摘しつつも,不確かで流動的な国際的展望の中で,電子書籍貸出を取り巻く国内の議論と,アグリゲーターや出版者,著作者との話し合いの状況を方向付けるために,可能性のあるすべての機会を調査し,他の図書館制度の経験と実践を可能な範囲で利用することは,図書館の義務であるとしている。

関西館図書館協力課・安原通代

Ref:
https://www.alia.org.au/sites/default/files/publishing/ALIA-Elending-Landscape-Report-2014_0.pdf
https://www.alia.org.au/news/6714/elending-landscape-report-2014-released
http://www.civicagenda.co.uk/
E1363
E1256
CA1771