E1256 – 孤児著作物に関する問題:その定義と規模について

カレントアウェアネス-E

No.208 2012.01.19

 

 E1256

孤児著作物に関する問題:その定義と規模について

 

 米国のカリフォルニア大学バークレー校は,「バークレー電子図書館著作権プロジェクト」の一環として,2011年12月から白書シリーズの刊行を開始した。同プロジェクトは,図書館や関連機関が資料のデジタル化にあたって直面する著作権上の課題について調査することを目的としており,課題そのものだけでなく,それを克服するための法的・技術的・社会的・経済的な解決法も探ろうとするものである。白書の第一弾として公開された「孤児著作物:定義の問題」(Orphan Works: Definitional Issues)という文献の概要を紹介する。

 前半部分では,孤児著作物の問題へのアプローチについて,考え方が整理されている。まず,孤児著作物についての表現で最も知られているものとして,米国著作権局による,「孤児著作物とは,著作権で保護されている著作物を著作権者の許諾を必要とする方法で利用したい者が,著作権者とその所在を特定できない状況を指すのに用いられる用語である」という定義を紹介している。そして,この考え方に基づくアプローチの特徴として,著作物の対象範囲や利用者の範囲は広いが,著作権者とその所在が特定できない場合に限定されているという点があるとしている。

 一方,著作権者と潜在的利用者を結びつけられないという点を,市場メカニズムの失敗という,より大きな問題として捉えるアプローチがあるとする。こうしたアプローチでは,絶版の著作物や商業的に利用できない著作物も考慮の対象となり,その例として,Googleブックス訴訟の和解案(CA1702参照)に含まれていた手法を挙げている。さらに,北欧諸国で導入されている「拡張された集中許諾」(Extended Collective Licensing;ECL)という方法も,同様の狙いがあるとしている。ECLは,著作権交渉コストが膨大になる場合に,集中型の権利管理団体に対してライセンス料を払うことで個別の著作権者との交渉なしに利用を可能にするという仕組みであり,そのカテゴリーに該当する全ての著作物が対象となるが,利用は特定の目的に限定されるという特徴があるとされる。

 続いて,欧州連合(EU)でのアプローチが紹介され,欧州委員会(EC)の孤児著作物に関する指令の案では,入念な調査(diligent search)を行っても著作権者が判明しない場合には図書館等の機関に限り利用を認めるとなっていることが紹介されている。また,絶版の著作物の利用に関する著作権者側と図書館等による合意文書が作成されたことにも言及されている。白書の著者は,これらのアプローチを踏まえて,対象資料や利用者を広く取る米国著作権局のような方法だけでなく,ある特定の資料や利用者に的を絞った方法も選択肢となるのではないかと述べている。

 後半部分では,孤児著作物問題の規模について,どれだけの数の孤児著作物があるのかと,問題の影響がどのくらい大きいのかという二つの点を検討している。まず,数については,これまでの調査結果からは多数の孤児著作物があるという程度のことしか言えず,法的な解決法のための検討材料とするには不十分であるため,書籍だけでなく雑誌や録音資料等も含めた,より一般化しうる調査が必要であるとしている。次に,影響の大きさについては,これまで本格的な検討がほとんど行われていないと指摘し,これらの著作物にアクセスできることの経済的・社会的価値を示すことが,法的・政策的決定に役立つことになるとしている。

Ref:
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1974614
http://www.arrow-net.eu/news/white-paper-orphan-works-berkeley-digital-library-copyright-project.html
http://www.law.berkeley.edu/12040.htm
CA1702