E1546 – 図書館界を「動かした人,揺るがせた人」2014年版

カレントアウェアネス-E

No.256 2014.03.27

 

 E1546

図書館界を「動かした人,揺るがせた人」2014年版

 

 2014年3月,米国のLibrary Journal誌が,「図書館界を動かした人,揺るがせた人」(Movers & Shakers)を発表した。この企画は,2002年から実施されているもので,米国の図書館界に,新しい風を吹き込んだ図書館員たちを,複数の分野にわけて選出するものである。今年は50名が選ばれ,累積では650名以上が選出されている。発表時には,その人物がどのような活動を行ってきたのか,端的にまとめた記事が掲載されている。ここでは,選ばれた人たちの生み出したアイデアに注目しながら,3人を紹介する。

 革新者(Innovators)の部門では,8人が選出されている。このうちRachel Vacek氏は,ヒューストン大学のウェブサービスの責任者であり,米国図書館協会(ALA)の図書館情報技術部会(LITA)の次期部会長に選ばれている人物でもある。彼女は,ALAの2013年“International Gaming Day @ Your Library”に連動する企画として,同館で“Game on, Congrats!”を開催し,学生や地域住民がゲーム開発者や出版社と出会う場を提供した。また“Discovery Day Camp”と称するウェブスケール・ディスカバリーの開発動向をテーマとするイベントを開催し,ヒューストン地域の図書館員に最新情報に触れる機会を提供している。これらのイベントは,同館の小額助成金制度を活用して実施している。これは,革新的な図書館サービスを提供する活動に対して,最大2,500ドルまでの小額の資金を提供するものであり,彼女はこれまでこの制度を活用し,上記を含め合計9件,総額16,000ドルの補助を得て,新しい取り組みを実現してきたという。

 コミュニティを作った人(Community Builders)の部門では7人が選出されている。このうちサンノゼ公共図書館(カリフォルニア州)のMadeline Walton-Hadlock氏は,そのあだ名“アウトリーチの黒帯”(outreach black belt)にふさわしい活動をしていると評価されている。紹介文によれば,彼女は「図書館の壁の中に居続ける図書館員は,新しい利用者を惹きつけることはできず,コミュニティが本当に必要なものを知ることもできない」ことを理解しており,積極的に図書館の外に繰り出しているという。例えばダウンタウンにあるカフェで小さな子どもたちに音楽や運動を交えたおはなし会を開催している。これによりファミリー層を図書館につなげている。また経済的に恵まれていない地域での勤務経験から,夏の読書プログラムの内容も大きく変更し,気楽なゲームスタイルのものにした。その結果,参加者数は大幅に増えたという。

 組織を変えた人(Change Agents)の部門では,9人が選出されている。このうちコロンバス・メトロポリタン図書館のRobin Nesbitt氏は,“本オタク”(book nerd)を自称するほどの愛読家である。同館で日々利用者と本についての会話をするのはもちろんのこと,Twitterや書籍系のSNSであるGoodreadsで情報を発信したり,毎月Facebook上で本についてチャットする企画を実施したりしている。また彼女は,同館のコレクションについても,読者のニーズに近づけるべく,全米でも珍しい急進的な手法を推し進めているという。これは“2:1 holds”ポリシーというもので,1冊あたり2件の予約待ちがあれば新たに1冊の副本を購入する仕組みである。同館では2004年から実施しているという。ベストセラーの本がどのくらい貸出しされているかを分析・検証し,利用者から要求のある本をより多く購入することで,投資対効果(ROI;CA1627参照)の向上を図っているのである。さらに,今年Community Builders部門でMovers & Shakersに選出されているMelissa Dewild氏らとともに,2013年に“LibraryRead”を立ち上げている。この事業では,月ごとに新刊本の中から公共図書館員が選んだ本のトップ10をリスト化して,図書館,出版社,そしてメディアに情報を提供するというものである。2014年1月時点で,全米1,881の図書館から3,438人のメンバーがこの事業に協力しているという。

 図書館サービスの中で行われている改善や,新しいサービスの創造は,そこで働いている図書館員の手によって行われている。Library Journal誌のMovers & Shakersは,その担い手たちにスポットライトを当てている点において意義のある制度と言えよう。またそれを通じて,生み出された数多くのアイデアや制度が広く共有され,広まっていく一つの仕掛けとなっていることにも注目しておきたい。

関西館図書館協力課・依田紀久

Ref:
http://lj.libraryjournal.com/2014/03/people/movers-shakers-2014/movers-shakers-2014/
http://lj.libraryjournal.com/2014/03/people/movers-shakers-2014/rachel-vacek-movers-shakers-2014-innovators/
http://lj.libraryjournal.com/2014/03/people/movers-shakers-2014/madeline-walton-hadlock-movers-shakers-2014-community-builders/
http://lj.libraryjournal.com/2014/03/people/movers-shakers-2014/robin-nesbitt-movers-shakers-2014-change-agents/
http://lj.libraryjournal.com/2014/03/people/movers-shakers-2014/melissa-dewild-movers-shakers-2014-community-builders
http://libraryreads.org/
http://www.publiclibrariesnews.com/2014/03/15-ideas-stolen-from-library-movers-and-shakers.html
CA1627