カレントアウェアネス-E
No.250 2013.12.12
E1509
「点字図書館オープンオフィス」に込めた思い
去る2013年11月9日・10日の両日,東京都高田馬場にある日本点字図書館を会場に「点字図書館オープンオフィス」を開催した。当館の日常業務を気軽に体験できるような企画とパネル展示を行い,事業を紹介した。二日間の来館者数は約1,200人。予想を上回る多くの方々にご来場いただき感謝申し上げたい。
●なぜオープンオフィスを行ったのか
当館は一民間施設ではあるが,視覚障害者の読書と文化活動を支える拠点として,視覚障害当事者から信頼をいただき,73年にわたり事業を続けてきたと自負している。しかし運営や財政については,社会の理解と支援がなければ明日の存続さえ危ういのである。当館の事業費の内訳は,国や都からの公的支援が22パーセント,企業・団体からの助成が17パーセントである。残り約60パーセントは,個人の篤志家からの寄付金と事業収入である。時代に即した最新の機器や技術を取り入れながらの事業の維持・発展は並大抵のことではない。当館の使命や役割を社会に向けて発信し,運営資金を自ら作り出して行かなければならないという宿命を負っているのが社会福祉法人立の点字図書館なのである。
初の試みとして行った「点字図書館オープンオフィス」は,当館を一般の人たちに広く「知っていただく」。そして来館くださった方々に当館と視覚障害者の「理解者,支援者になっていただく」。加えて,これまで長年支援くださっている個人,団体,企業の方々へ、事業報告及び感謝の気持ちを伝える機会と位置付けた。そのために,事業内容を分かりやすく伝え,当館の社会的使命について,「共感」を持ってもらえるよう心がけたつもりである。
●どんな企画を用意し,誰が来館したのか
初日は,当館事業を長年にわたって支えてくださった方々をお招きしての表彰式典。この一年間に奉仕活動を勇退された点訳,朗読奉仕者への感謝状の贈呈や,視覚障害者の福祉の向上に貢献した個人や団体を顕彰するものである。続いて,外部講師による講演を二題。「目の見えない人々への社会貢献として何ができるか」と,「アークどこでも本読み隊,3年間の歩み-全盲の日本人がタイで図書館を作った理由」と題する講演で,当館の事業支援と障害者理解につながるテーマでお話しいただいた。
講演と並行して,二日間にわたって館内各部署で行われた体験型企画は、以下のようなものである。
盲導犬と歩いてみよう,視覚障害者スポーツサークル紹介,パソコンを音で操作してインターネットから図書を聞いてみよう,録音図書再生機の変遷,点字図書に触れてみよう,見えない人が映画を楽しむために必要な副音声とは,視覚障害者の日常「遊んで・作って」一緒に体験,身近な点字どこにあるかな,見えない見えにくい体験をしてみよう,iPadでアクセシブルな読書を体験,当館を支援くださっている企業や団体のご紹介など,20を超える企画を用意した。
メインターゲットは,上述した目的からも明らかだが,当館の運営支援につながる団塊の世代を中心とした社会人,企業CSR担当者である。もちろん視覚障害者の来場もあった。会場での晴眼者と視覚障害者の自然な交流が,障害者理解につながって欲しいと願っていた。
●来場者は何を見,何を感じたのか
アンケートから,これまで当館を知らなかったが来場者が三割程度いたことが分かった。これは「新たな理解者や支援者を増やす」という今回の目的を考えると,その可能性に期待の持てる数字である。
来場者の感想をご紹介しよう。
・点字図書館が一民間施設であること知り,驚いた
・公的助成が少ないことを知った
・点字図書館が読書だけでなく,多様な事業やサービスをしていることを知った
・視覚障害を疑似体験し大変さを知ったので,これからは手助けをしたい
・点字や点字図書館が必要なことを知った
・インターネットやPCで視覚障害者の読書が進化していることを知った
これらの感想から,来場者が「何を見、何を感じたのか」を垣間見ることができる。そしてそれは,私たちの予想と見事に一致している。
●おわりに
障害者の社会参加や自社の社会貢献について考える企業や団体は多い。また個人として社会との関わりを考える団塊の世代も増えている。これから私たち社会福祉法人立の図書館は,こうした団体や個人を,支援者として巻き込んで行くことができなければ,財政面だけでなく,運営面でも施設の未来はないと考えている。今まで見過ごされて来た図書館の広報活動とは,将来の実りのためのものである。思いを込めて「一粒の種を蒔く」。これを続けて行かなければと思う。
社会福祉法人日本点字図書館長・天野繁隆
Ref:
http://www.nittento.or.jp/news/open_office.html
http://www.nittento.or.jp/report/index.html
http://www.nittento.or.jp