カレントアウェアネス-E
No.228 2012.12.13
E1370
公共図書館の“ストーリーマップ”―カリフォルニア州の試み
「図書館カードを手にした時。それが私の人生の始まり。」
作家リタ・メイ・ブラウン(Rita Mae Brown)氏の言葉を表紙に添えたパンフレットが,カリフォルニア州立図書館より公表された。同館の図書館長を務めたアルドリッチ(Stacey A. Aldrich)氏らが数か月かけて構想した,“The Emerging Story of California Public Libraries”と題する6ページのパンフレットである。急激な変化を遂げている今日の社会においても,依然として公共図書館が重要な公的機関であるという考えと,図書館の役割についてもっと議論をしようというメッセージが込められている。
このパンフレットは,図書館という物語を解説する“ストーリーマップ”として仕立てられている。4ページ目において,公共図書館の役割の歴史的変遷を簡潔に図示し,5ページ目において,現在の図書館の機能を,“21st Century Library”という仮想の図書館のイラスト上に図解している。
“21st Century Library”の1階には,「貸出サービス」,「家族が集うスペース」,「学習支援」,「クラウドへのアクセス(インターネットサービス)」が描かれている。「貸出サービス」の説明には,図書館が貸出するのは,本や音楽,映画に留まらず,地域が共有したいと思っているその他のアイテムにまで拡大しているとし,具体的には,大工道具や調理器具,さらにはその道に詳しい人までが“貸出”の対象となっていることを説明している。また「学習支援」の説明には,学習がソーシャルなものになっていく中で,図書館は地域の多様な学習トピックが扱われる,需要の高い場所であることが指摘されている。
2階には,「地域のコンテンツを創る機能」,「メイカースペースとしての機能」,「コミュニティをつなぐ機能」,「経済のインキュベーターとしての機能」が描かれている。「地域のコンテンツを創る機能」については,地域の資料を保存してきた図書館が,地域の歴史を言葉や音声や動画により記録化し,地域の集合的記憶を将来世代に共有していくことにおいて役割を果たしていることを示している。ここではダグラス郡図書館のラルー氏(E1363参照)の「公共図書館はかつて世界をコミュニティに持ってくるものであったが,今日では図書館はコミュニティを世界に連れていくものとなっている」という言葉を引用している。また「メイカースペース」については,人々が創作活動を行えるよう,図書館がスペースを用意し,支援していることを示している。「コミュニティをつなぐ機能」については,図書館が,信頼のある仲介者となり,様々な分野で協同を促していることを示している。
2階の隅の部屋は改築中のスペースとなっている。これは,図書館が進化し続けており,これから先もコミュニティ特有の要求に応えていくものであるという意思表示のようである。その説明には,「地域の図書館は,変わりゆくニーズと期待にどのように適応するのか?」と,問題提起がなされている。
このようなストーリーマップを示しつつ,パンフレットでは,カリフォルニア州の公共図書館が困難な財政状況にあることに触れ,現在もなお図書館が重要である7つの理由を強調している。ここでは,図書館が,人々の人生の転換期に支援をしたり,複雑な世界の中で情報を探す手助けをしたりしていることを挙げ,他の公的機関には図書館のようなものはないとしている。そして,議論の骨組みを創ることにより,資金と,協同と,集合的想像力を増大させたいのだと,ストーリーマップを作製した狙いを示している。そしてこのパンフレットは完成したものではなく,始まりに過ぎないと記し,図書館がより大きな物語を語れるように手助けして欲しいと訴えている。
“21 Century Library”の2階の隅の部屋が改築中となっていることに象徴されているように,これからさらに新しい物語を加えストーリーマップも大きくしていきたい,との意思が感じられるものとなっている。
(関西館図書館協力課・依田紀久)
Ref:
http://www.library.ca.gov/pressreleases/pr_121109.html
http://www.library.ca.gov/lds/docs/CAPublicLibraryStoryMap.pdf