E1363 – 米国図書館界で注目,電子書籍の「ダグラス郡モデル」とは?

カレントアウェアネス-E

No.227 2012.11.29

 

 E1363

米国図書館界で注目,電子書籍の「ダグラス郡モデル」とは?

 

 図書館における電子書籍の先進的な導入方法に「ダグラス郡モデル」と呼ばれているものがある。

 2011年3月に米国コロラド州にあるダグラス郡図書館(Douglas County Libraries:DCL)によって発表されたもので,その後,各地の図書館で導入が検討されるなどの影響を与え続けている。2012年9月には,その革新性が評価され,The Charleston Advisors誌より電子書籍イノベーション賞が贈られた。受賞の際,ダグラス郡モデルは同誌から,“Take control of your e-books!”,つまり「電子書籍のコントロールを取り戻そう!」と評されている。

 一体,どのようなモデルなのだろうか。

 近年,図書館は電子書籍の導入にあたり,紙の書籍では起こらなかった課題に直面している。例えば,ハーパーコリンズ社による貸出回数の制限(E1156参照),図書館向け販売価格の値上げ,他社の電子書籍サービスに移行する際のコンテンツの引継に係るトラブル(E1233参照)などである。その背景には,電子書籍は紙の書籍のように買い取るのではなく出版社のサイトへのアクセス権を得るだけのものであるという性質や,出版社から電子書籍の場合でも図書館の貸出によって売上が減少すると警戒されているといった事情があるだろう。

 そこで,DCLのラルー(Jamie LaRue)館長はこう考えた。出版社と良好な関係を構築し,購入した電子書籍のファイルを出版社に提供してもらい,それらを図書館のサーバで管理するようなしくみは作れないだろうか,と。そうしてできあがったのが,ダグラス郡モデルである。

 このモデルでは,DCLは,Adobe社の“Adobe Content Server”を中心としたシステムを構築する。Adobe Content Serverは,デジタル著作権管理(DRM)による電子書籍の管理・貸出を行うことができるもので,OverDrive社や3M社の電子書籍サービスでも採用されている。利用者は,DCLのOPACから電子書籍を検索できるようになっている。なお,DCLがこのシステムを一から開発するためにはおよそ10万ドルかかったという(その後,他の図書館に展開するときには6,000ドル程度だったとのこと)。

 DCLは,第一弾として,2011年5月にコロラド独立系出版社協会(CIPA)との契約に成功した。その契約内容は以下のようになっている。

  • DCLの利用者は,1つのファイルには同時に1人しかアクセスできない。
  • CIPAは,加盟社に対して図書館に最低水準の価格で販売するよう推奨する。
  • DCLは,電子書籍ファイルの再販売や譲渡を行わない。
  • CIPA加盟社は,図書館利用者に対しても図書館向けと同じ価格で販売する。
  • DCLは,OPACからCIPA加盟社の電子書籍販売サイトへリンクする。

 加えて,DCLでは4件の予約が入るたびにその電子書籍を1点買い足すように努めているともいう。このように,DCLは,DRMによる管理や同時アクセス数の制限,図書館を通じた販売促進といった手法を出版社や権利者に提案し,引き換えに,電子書籍のファイルの取得や販売価格の引き下げを可能としている。

 CIPAに続いて,2011年10月にはGale社や,子ども向け電子書籍を提供するLerner Digital社とも契約に至った。現在では契約が交わした出版社は14社に及ぶ。ただし,これらは各社との個別交渉であり,ディストリビューター相手の一括契約に馴染んでいる大規模出版社は参加に難色を示すのではという指摘もある。

 さて,現在,ダグラス郡モデルは,同じコロラド州の図書館コンソーシアムMarmot Library Networkやコロラド州立図書館なども巻き込んだ“Evoke”という州レベルのプロジェクトへと発展していっている。Evokeのサイトには様々な情報が整理されており,同モデルの導入を検討する図書館の役に立つであろう。また,ラルー館長は,このシステムを用いた“出版者としての図書館”というアイディアを抱いているようでもある。

 他の地域でも,マサチューセッツ州がこのモデルに基づいた州レベルの計画を2012年10月に発表している。2013年5月から3か月間,公共・大学・学校・専門という様々な館種の50の図書館による実証実験を行う予定である。

 電子書籍の未来において図書館は出版社と良好な関係を築き,共に市場を育てていくことができるのか。ダグラス郡モデル,そしてラルー館長の今後の動きに注目したい。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.libraryjournal.com/lj/communityacademiclibraries/889765-419/colorado_publishers_and_libraries_collaborate.html.csp
http://dx.doi.org/10.5260/chara.14.2.3
http://lj.libraryjournal.com/2011/05/opinion/lj-insider/colorado-publishers-association-douglas-county-library-make-ebook-model-official/
http://www.cipacatalog.com/pages/Library-eBook-Partnerships.html
http://www.thedigitalshift.com/2011/10/ebooks/douglas-county-libraries-strikes-new-deals-with-publishers-to-own-ebooks/
http://www.thedigitalshift.com/2012/01/ebooks/douglas-county-library-erects-legal-framework-for-ebook-purchases-with-assist-from-mary-minow/
http://www.thedigitalshift.com/2012/05/ebooks/momentum-builds-for-dcls-ebook-model/
http://jaslarue.blogspot.jp/2012/01/statement-of-common-understanding-for.html
http://www.thedigitalshift.com/2012/06/ebooks/all-hat-no-cattle-a-call-for-libraries-to-transform-before-its-too-late/
http://www.thedigitalshift.com/2012/09/ebooks/harris-county-latest-to-try-dcl-ebook-model/
http://www.adobe.com/jp/products/contentserver/
http://www.marmot.org/
http://evoke.cvlsites.org/
http://evoke.cvlsites.org/resources-guides-and-more/douglas-county-experiment-model/
http://evoke.cvlsites.org/files/2012/10/Contact_list_for_publishers_10-31-12.pdf
http://mblc.state.ma.us/mblc/news/releases/past-releases/2012/nr121011.php
http://mblc.state.ma.us/grants/resource_sharing/index.php
E1156
E1233