E1376 – 予算削減? 統計でみる米国の大学図書館10年<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.228 2012.12.13

 

 E1376

予算削減? 統計でみる米国の大学図書館10年<文献紹介>

 

Regazzi, John J. Constrained? An analysis of U.S. academic library shifts in spending, staffing, and utilization, 1998-2008. College and Research Libraries. 2012, 73(5), p.449-468.

 米国の大学図書館員は,ここ数十年「予算が削減されている」と声を上げてきた。シリアルズ・クライシスや米国全体の景気後退によって図書館財政に対する懸念が高まる一方で,多様な電子資料の獲得と所蔵資料の電子化,そしてそれらを有効に活用するための人材確保や環境整備が求められている。

 では実際に,米国の大学図書館はどのように変化したのだろうか? 本論文は,全米約3,700の大学について,図書館の財政,職員,利用に関する10年間の経時的分析を行っている。分析は,全米教育統計センター(National Center for Education Statistics:NCES)が隔年で実施している図書館統計プログラムのデータに基づいて行われており,対象年度は電子資料に関する統計データの収集がはじまった1998年度,2004年度および2008年度である。各調査項目について,(1)大学の種類(公立/私立非営利/私立営利),(2)カーネギー分類(博士号授与機関/修士号授与機関/学士号授与機関/準学士号授与機関/その他),(3)在籍学生数による規模(4段階)の3つの観点から比較している。

 10年間の主な分析結果は次の4点である。

  • 「大学図書館の予算は削減されている」という見解に反して,図書館総経費の増加率は物価上昇率を11.9%上回っている。
  • コンピュータやアーカイブなどの専門知識を持つ,図書館員以外の「専門職員」数が44.1%増加している。
  • 入館,貸出,レファレンスの件数は,全て減少している。
  • 大学の規模やタイプによって変化の度合いは異なり,大規模公立大学や私立博士号授与機関の図書館が米国の大学図書館界を牽引している。

 経費について詳しくみると,物価上昇率に対して資料費は22.7%,人件費は9.5%増加している。資料費は,電子ジャーナル費が6倍,電子書籍費が4倍近く増加しており,紙媒体の資料費は減少傾向にある。とは言うものの,2008年度においても紙媒体の書籍費の総計(7億8,744万ドル)は電子書籍費の総計(1億3,356万ドル)を上回っており,雑誌の定期購読費の総計(17億10万ドル)もまた電子ジャーナル費の総計(10億223万ドル)を上回っている。

 前述の通り人件費は9.5%増加しているが,一機関あたりの平均職員数(フルタイム換算)は7.8%減少している。職員構成の変化をみると,図書館員は3.8%,専門職員は44.1%増加している反面,非専門職員は10.6%,学生アシスタントは18.9%減少している(専門職員の増加率が高いが,2008年度の職員構成は,図書館員28.9%,専門職員8.0%,非専門職員37.2%,学生アシスタント25.9%である)。

 また,図書館利用は,開館時間1時間あたり,かつ在籍学生数1,000人あたりの件数を算出している。入館の件数は,学士号授与機関と小・中規模大学の図書館でわずかに増加しているものの,貸出やレファレンスの件数は,いずれのタイプの図書館においても減少している。なお,電子資料の利用については触れられていない。

 本論文は,財政難と言われる米国の大学図書館の総経費が実質ベースでは増加していること,特に電子資料費が顕著に増加していること,専門職員の雇用が増えていることを客観的に示している。疑問点をあげるとすれば,利用件数の減少には開館時間の拡大が影響していると考えられないだろうか。実際,NCESの統計資料によれば,1週間あたりの開館時間は平均1.4時間延長されており,24時間開館は20から33大学に増加している。コアタイム以外の開館時間延長は少数のニーズに応えるためのサービスであり,時間あたりの利用が減少するのは不可避であろう。

(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為)

Ref:
http://crl.acrl.org/content/73/5/449.full.pdf+html
http://nces.ed.gov/pubs2001/2001341.pdf
http://nces.ed.gov/pubs2010/2010348.pdf