E1303 – 2012年著作権法改正:図書館・公文書館の関係規定について

カレントアウェアネス-E

No.217 2012.06.28

 

 E1303

2012年著作権法改正:図書館・公文書館の関係規定について

 

 2012年6月20日,政府提出の著作権法一部改正法(E1280参照)が,参議院本会議で可決され,成立した。

 この法律は,大きく分けて,(1)いわゆる「写り込み」等に係る規定の整備,(2)国立国会図書館(NDL)による図書館資料の自動公衆送信に係る規定の整備,(3)公文書館等の管理に関する法律等に基づく利用に係る規定の整備,(4)著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備,の4つに加え,衆議院の審議段階で加わった(5)いわゆる「違法ダウンロードの刑罰化」の5つから構成される。本稿では,紙幅の関係で,これら改正事項の中のうち,図書館や公文書館に関係する規定である(2)と(3)について解説する。

 (2)は,NDLが作成した膨大なデジタル化資料のうち,「絶版等資料」に限り,公共図書館や大学図書館等に対して,そのデジタルデータを送信するとともに,受信先で一定範囲のプリントアウトを認めるというものである(改正後の著作権法第31条第3項)。これは,2010年11月に設置された「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」(以下「検討会議」という:E1259参照)での検討結果をもとに2011年度の文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(以下「法制小委」という)で行われた検討の結果を踏まえたものである。

 送信先については,送信先でプリントアウトを行う関係上,「著作権法第31条の適用がある図書館等の範囲を参照した上で整理することが必要」という検討会議で示された検討結果が法制小委でも適当と認められたことに基づき,著作権法施行令第1条の3各号に掲げられている図書館等,すなわち,公共図書館,大学・短大・高専図書館,一部の専門図書館等(以下「図書館等」という)とされている。

 送信対象出版物の範囲については,「電子書籍市場の形成や発展を阻害することがないよう,原則として市場において入手することが困難な出版物を当該送信サービスの対象とすることが適当」という検討会議での検討結果を法制小委でも適当と認めた結果,「絶版等資料」,すなわち,著作権法第31条第1項第3号の「絶版その他これに準ずる理由により入手することが困難な図書館資料」に限定されている。その上で,法制小委では,その確認方法につき,個別確認が困難なことや早期の送信サービス実施のための確認迅速化の必要性から,「各デジタル資料の入手困難性について個別に確認すること以外の手法や基準を定めることが必要」であるとし,その手法等については,「関係者間における協議において定められることが適当」と結論づけている。

 また,送信先におけるデジタル化資料の利用方法についても,検討会議において示された,出版物の所蔵冊数を超える同時閲覧を認めること,送信先の図書館等においてプリントアウト等の複製を認めることという結論が,法制小委員会においても適当とされた。このため,閲覧数の限定についての規定は設けられず,また,送信先の図書館等における複製については,著作権法第31条第1項第1号の規定とほぼ同様の書き振りによる規定が設けられた。ただ,複製物の提供の具体的な在り方については,法制小委において「当該複製物の提供に係る具体的な在り方を定めた基準が関係者間において策定されることが必要」とされていることから,関係者間の協議に委ねられることとなった。

 (3)は,公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)及び各地方公共団体が制定する公文書管理に関する条例の規定のうち,著作権法との調整が必要となる2つの事項について対応したものである。これは,2010年度に法制小委で行われた検討の結果を踏まえたものである。

 1つ目は,国立公文書館等および地方公文書館等に移管された歴史的文書(特定歴史公文書等)については,これらの機関に永久保存義務が課せられている(公文書管理法第15条)が,その保存のための複製を,必要と認められる限度において,権利者の許諾なしに行うことができるというものである(改正後の著作権法第42条の3第1項)。

 2つ目は,特定歴史公文書等については,保管する機関において,原本の閲覧やコピー,マイクロ化やデジタル化,録音したものの再生及びプリントアウト,CD-R等への複製等により提供することが義務づけられている(公文書管理法第16条及び第19条)が,これらの行為を行う際に権利者からの許諾を要しないこととしたものである(改正後の著作権法第42条の3第2項)。

 なお,この法律は,(5)の関連規定が公布の日から,(3)から(5)の規定が2012年10月1日から,(1)および(2)の規定が2013年1月1日から,それぞれ施行することとされている(改正法の附則第1条)。

(関西館図書館協力課・南亮一)

Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1318798.htm
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/6_529E.htm
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/shingi_hokokusho_2301_ver02.pdf
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/bunkakai/35/pdf/shiryo_3_1.pdf
E1259
E1280