E1259 – 「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の報告

カレントアウェアネス-E

No.209 2012.02.09

 

 E1259

「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の報告

 

 2012年1月10日付けで,「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の報告が文化庁のウェブサイトで公表された。この会議は,2010年6月に取りまとめられた「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告」(E1066参照)を受けて設置されたもので,(1)デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項,(2)出版物の権利処理の円滑化に関する事項,(3)出版者への権利付与に関する事項,の3点について,著作者,出版関係者,図書館関係者,配信事業者,有識者等により,2010年11月以降,計14回の検討が行われ,報告がまとめられた。

 (1)の「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方」に関しては,図書館の役割が今後更に重要になってくるとした上で,国立国会図書館でデジタル化された資料を利用した,送信サービスや本文検索サービスの実施等についての検討結果が記されている。送信サービスについては,第一段階として,国民の「知のアクセス」の向上等の観点から,一定の範囲・条件のもとに公立図書館等で利用可能となるよう著作権法の改正を行うことが適当であるとしている。対象出版物の範囲は,市場では入手困難な出版物等とされている。

 (2)の「出版物の権利処理の円滑化」に関しては,出版物の流通状況や,権利処理に必要な情報の整備状況に応じて方策を検討することが必要であるとし,「出版物に関する情報を集中的に管理する取組」「権利処理の窓口的な機能を果たす取組」「権利処理に係る紛争の処理に資するような取組」について,論点がまとめられている。そして,具体的な取組の実施にあたっては,法的な問題や費用負担の問題等が存在しており,権利者,出版者,配信事業者等の関係者による協議が重要であるとしている。

 (3)の「出版者への権利付与」に関しては,出版者に複製権や公衆送信権等の著作隣接権を付与することの意義や必要性について,諸外国の法制度や国内の出版契約実態も踏まえ,2つの観点からの検討結果が記されている。第一の観点である電子書籍の流通と利用の促進に関しては,出版者等からは権利処理の円滑化につながる等の積極的な意見が出される一方,権利付与が与える影響について更なる検証・検討が必要であるという意見も出たとしている。第二の観点である権利侵害への対応に関しては,何らかの対応措置が必要であることについては概ね意見が一致したものの,具体的な方策については,現行制度における対応等も含め,引き続き検討すべきとの意見が大半であったとしている。そして,(3)の全体に関しては,制度的対応も含め早急な検討を行うことが適当であるとまとめられている。

 「おわりに」では,この会議での検討において具体的な取組の方向性を打ち出すまでには至っていない点については,今後も,電子書籍市場の維持発展に及ぼす影響に留意しながら,関係者の合意形成を図りつつ検討が進められることが必要である,とされている。

Ref:
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/denshishoseki/kouhyou.html
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/denshishoseki/index.html
E1066