E1146 – 文化審議会著作権分科会の報告書が提出される

カレントアウェアネス-E

No.188 2011.02.17

 

 E1146

文化審議会著作権分科会の報告書が提出される

 

 2011年1月31日に文部科学省で開催された第52回文化審議会総会に,同審議会の著作権分科会の報告書が提出された。2009年3月以降に,著作権分科会の基本問題小委員会,法制問題小委員会,国際小委員会の各小委員会で検討されてきた内容がとりまとめられたものである。そのうちの法制問題小委員会における検討結果の内容から,パブリックコメントが募集されるなど大きな注目を集めていた「権利制限の一般規定」と「技術的保護手段の見直し」に関する部分について,概要を紹介する。

 「権利制限の一般規定」とは,米国の「フェアユース規定」のように,著作物の利用に関する権利制限(著作権が働かないようにすること)に関し,一定の包括的な考慮要件を定めるというもので,「日本版フェアユース」として検討が行われてきた(E895E1014参照)。報告書では,技術の発展や社会状況の変化を考慮すると現行のような個別の権利制限規定の解釈による解決には一定の限界があり得るという点,民法上の一般規定よりは著作権法の枠内での対応が可能となる方が望ましいとの点,そして,権利者の利益を不当に害さないような利用でも利用者が利用を躊躇するという萎縮効果が一定程度解消されることが期待できるという点から,権利制限の一般規定を導入する意義は認められるとしている。

 権利制限の一般規定の内容としては,(1) 写真撮影時の写り込み等の「著作物の付随的な利用」,(2) CDへの録音許諾を得た場合の中間過程での複製等の「適法利用の過程における著作物の利用」,(3) 技術の開発や検証のための利用等の「著作物の表現を享受しない利用」の3つの類型が挙げられている。ただし,これらの行為であっても,社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを追加の要件とする等の方策が必要とされている。また,障害者福祉,教育,研究,資料保存といった特定の目的を持つ利用については,必要に応じて個別規定の改正等により対応することが適当とされている。

 「技術的保護手段の見直し」が行われた背景としては,現行の技術的保護手段がコピーコントロール技術のみを対象としており,視聴等を制限するアクセスコントロール技術が対象外となっているため,近年のアクセスコントロール技術の回避機器等の氾濫によるコンテンツ産業,とりわけゲーム業界で生じている大きな被害への対応が困難となっていることが挙げられる。報告書では,「技術」のみではなく,その社会的な「機能」に着目して保護技術を再評価すべきとし,そのような観点から,DVD等に用いられる暗号型技術や,ゲーム機・ゲームソフト用の保護技術について,アクセスコントロールとコピーコントロールの両方の機能を有すると評価し,技術的保護手段の対象とすべきとしている。

 これらの導入・見直しに関し,報告書の「おわりに」の部分では,立法措置を講じるに当たっては関係者の懸念事項に十分に留意することが必要であるとしている。特に権利制限の一般規定については,権利保護に欠けたり利用秩序に混乱が生じたりしないよう,明確性の原則等に留意するとともに,立法措置を講じた後も,十分な周知を図ることや運用状況の検証を行うことが必要としている。著作権法の改正法案の国会への提出時期等も含め,今後の動向が注目される。

Ref:
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/52/pdf/shiryo_2_2.pdf
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/52/pdf/shiryo_2_3.pdf
E895
E1014