E1014 – 「日本版フェアユース」についてのワーキングチーム報告書

カレントアウェアネス-E

No.165 2010.02.03

 

 E1014

「日本版フェアユース」についてのワーキングチーム報告書

 

 著作権制度におけるフェアユースとは,利用目的や著作物の性格等からその利用が公正であると判断される場合には,無許諾であっても著作権侵害とはならないとするもので,米国等の著作権法で導入されている。日本の著作権法における権利制限は個別事例に沿って規定されているが,技術革新への対応等のため「日本版フェアユース」とされる「権利制限の一般規定」(以下,「一般規定」とする)の導入を求める意見がある(E895参照)。この問題について議論している文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では,2009年9月に一般規定に関するワーキングチームを設置し,その報告書が2010年1月20日の小委員会に提出された。報告書は今後の議論のためのたたき台と位置づけられており,結論が示されているものではないが,その概要を紹介する。

  第1章では,一般規定を導入する必要性について整理している。必要性については利用者側と権利者側の意見の隔たりが大きいとした上で,立法的対応が必要と判断するためには導入を根拠付ける立法事実の有無について充分検討すべきとしている。ただし,現在の個別の権利制限規定の改正等に時間がかかるとの指摘に対しては否定的な見解を示しており,また,一般規定による経済的効果についても,その根拠として言及されている米国の調査報告書のみでは確認できないとしている。

  第2章では,仮に一般規定を導入するとした場合の検討課題を整理している。一般規定の内容については,権利制限の対象として要望のある利用行為を5つに分類し,それぞれについて,一般規定の対象となるかどうかについてのワーキングチームでの意見の集約度が示されている。(1) 写真の撮影等に伴って著作物が写り込んでしまう場合等のいわゆる「形式的権利侵害行為」については対象とする意見が大勢であり,(2) CDへの録音許諾を得た場合のマスターテープ作成時の複製等や,知覚するための利用ではない技術検証等のための複製等についても,対象とする意見が多かったとされている。なお,これらいずれについても「社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であることを要件とすべき」との意見が大勢であったとしている。

 一方,(3) 既存の個別規定の解釈による解決可能性がある利用については一般規定の対象とする必要がないとの意見が大勢であり,(4) 福祉・教育等の公益目的やパロディ等の特定の目的を持つ利用,(5) その他の利用,の2分類については,必要に応じて個別規定の改正等による対応が適当であるとの意見が大勢であったとしている。

 この報告書の内容については,2010年1月27日に開催された著作権分科会でも議論が交わされ,推進・反対の両方の立場からの意見が出た模様である。また,日本新聞協会や日本文藝家協会など6協会からは,一般規定の導入に反対する内容の意見書が提出されている。2010年3月に中間まとめが出される見込みとされており,今後の動向が注目される。

Ref:
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_07/gijiyoshi.html
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/kenri.html
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20407174,00.htm
http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/iken20100120.pdf
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/bunkakai/29/index.html
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100128/343889/
E895