E1114 – OCLC副社長ミハルコ氏講演会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.182 2010.11.04

 

 E1114

OCLC副社長ミハルコ氏講演会<報告>

 

 2010年10月8日に国立国会図書館(NDL)関西館において,OCLCの副社長ミハルコ(James Michalko)氏による「デジタル環境下における米国の図書館とOCLCの最新動向」と題した講演が行われた。ミハルコ氏はOCLCの研究・開発等の部門であるOCLC Researchの担当でもある。以下はその講演内容を要約したものである。なお,講演資料はOCLCのウェブサイトに掲載されている。

 講演はまず,OCLCとNDLとの協力関係およびWorldCatに登録されている日本語資料のデータの現状に関する簡単な紹介から始まった。その後,ミハルコ氏は米国の研究・大学図書館に焦点を絞ってその現状を紹介した。

 大学図書館の予算に関しては,北米研究図書館協会(ARL)のデータを基に,図書館による資料購入費が1986年以降一貫して増加傾向にあり,特に逐次刊行物の購入費用の伸びが顕著である一方で,高等教育費に占める図書館予算の比率が減少し続けている事実を紹介し,その原因は大学図書館が大学当局の期待や利用実態の変化に適応できていないことにあると指摘した。紙資料の利用については,オハイオ州の大学図書館88館のデータから,過去20年間において,総合目録に登録されている資料の約13%が貸出件数の80%を賄っていたと述べ,一部の資料のみが繰り返し利用され,他の多くの資料が利用されていない実態を示した。

 次に,ミハルコ氏はデジタル環境下における研究・大学図書館の現状について説明を行った。以下にその内容を列挙すると,2007-08年度のデータでは研究図書館の資料購入費において電子リソースへの支出が占める割合は約50%となっており,現在その割合は60%を越えている,逐次刊行物はすでに電子媒体がメインであり,レファレンス資料についてもほぼすべてが電子媒体となっている,米国の主要な出版社は今後10年以内にすべての出版物を電子書籍形態で刊行する見込みであるという。これらを踏まえ,もし電子書籍の形態での出版が主流となり,また過去の紙媒体の資料がデジタル化されると,現在所蔵している紙媒体の蔵書について,図書館は廃棄を含めてその処置を考えることになるだろうと指摘した。

 続いてミハルコ氏は今後の大学図書館のあり方について次のように展望を示した。まず,電子ジャーナルと電子書籍の進展から,今後10年以内に電子出版物に対する支出が研究図書館における資料購入費の80%を超えることになるであろうということ,また,研究図書館における資料の大規模デジタル化の進展によって,研究図書館全体で資料を「クラウド化」して共有することになるだろうということだった。そして,こうしたデジタル環境への全体的な移行が,学術コミュニケーションと大学図書館の蔵書の双方に影響を与えることで,大学図書館の役割が,電子リソースへのアクセス権を購入する機関として,また,所属大学の研究記録やその成果の保存と公開を中心に行う機関としてのものへと変わっていくだろうと展望をまとめた。

 最後に結論部分では,前段で述べたデジタル環境への移行とそれに伴う大学図書館の役割の変化をまとめたのち,それに伴って国立図書館や政府機関も変化を求められることになると指摘した。すなわち,国立図書館や政府機関は,大学図書館との連携や自分たちの任務の再確認を求められ,また国全体をカバーするような新たなシステムの一部として重要な役割を果たすことを期待されるようになるという。そしてその結果として,国全体の学術記録と文化遺産の保存・管理が行われることになるだろうと講演を括った。

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/jmlecture.html
http://www.oclc.org/research/presentations/default.htm