E1107 – ゲームの保存における課題を探るプロジェクトの報告書(米国)

カレントアウェアネス-E

No.181 2010.10.21

 

 E1107

ゲームの保存における課題を探るプロジェクトの報告書(米国)

 

 コンピュータゲームとインタラクティブ・フィクション(テキストによるゲーム)の保存における課題等を調査するプロジェクト「バーチャル世界の保存」(Preserving Virtual Worlds;CA1719参照)の最終報告書が,2010年9月20日に公表された。同プロジェクトは,イリノイ大学アーバナシャンペーン校等の5つの大学と,オンライン上の仮想世界“Second Life”を運営するリンデンラボ社の計6者により,米国議会図書館(LC)が実施している「全米デジタル情報基盤整備・保存プログラム」 (NDIIPP;CA1502参照)の事業の一環として,2008年から2010年にかけて実施されたものである。

 報告書の要約部分では,技術・社会・法律等の領域も踏まえた,バーチャル世界の保存における重要課題として,次のような点を挙げている。

  • ハードとソフトの旧式化(obsolescence)が最大の課題である。プロジェクトのケーススタディで取りあげたゲームのうち最も古い“Spacewar!”(1962年)は,パンチされた紙を“PDP-1”というコンピュータに読み込ませて動かすというものであるが,実際に作動するPDP-1はカリフォルニア州のコンピュータ歴史博物館にしかない。積極的な保存活動がないと,全てのゲームがこの運命をたどる。
  • 何を保存対象とするかの正確な線引きが困難である。ゲームは比較的独立したパッケージであると考えがちであるが,ゲームを動かすためにはハードやOSが必要であり,ゲームを構成するものは何か,ゲームを保存するには何が必要か,を決定するのは難しい。
  • 保存目的のコピーを作成するためであっても,ゲームのコピーガードを解除することは法律で禁止されている。許諾を得るために著作権者を探すのは,盛衰の激しいゲーム業界では困難を伴う。
  • 保存に際しては,対象物そのものに加えて,内容を解読し再現するための情報や,対象物の持つ意味や重要性を理解するための情報等も保存する必要がある。しかし,ゲーム業界では,このような情報は企業内にとどめられたり通常の出版ルートから外れているものが多く,収集が難しい。
  • 保存においては,マイグレーションやエミュレーション等の手法も用いられるが,これらにより,ゲームの見た目や動作が変わってしまう可能性がある。将来の研究者がゲームのどの点を重視するかを考慮したうえで,保存手法を選択することが必要である。

 続いて,図書館・文書館・博物館(MLA)が保存のために行える取組みとして,(1) ゲーム資料を受け入れる際にその資料の情報や他の資料との関連性を適切に把握できるようにすること,(2) 収集や管理のための責任の分担についてLC等の組織が主導的役割を担うこと,(3) ゲームユーザーのコミュニティが貢献できるような保存のシステムを開発すること,(4) 保存をしやすくするために知的財産法を見直すこと,の4点が示されている。

 報告書の結論部分では,MLA関係者に対し,より効果的に協同するための協議を開始することや,ゲームユーザーのコミュニティと交流することの必要性が指摘されている。同プロジェクトには,博物館・図書館情報サービス機構(IMLS)による第2期への資金援助が決定しており,引き続きその動向が注目される。

Ref:
http://pvw.illinois.edu/pvw/
https://www.ideals.illinois.edu/handle/2142/17097
http://www.lis.illinois.edu/articles/2010/09/preserving-virtual-worlds-ii-awarded-more-750000-imls
CA1502
CA1719