カレントアウェアネス-E
No.180 2010.10.07
E1103
大学図書館の価値に関する報告書(米国)
2010年9月,米国の大学・研究図書館協会(ACRL)は,大学図書館の価値に関する報告書“Value of Academic Libraries: A Comprehensive Research Review and Report”を公表した。本報告書の執筆はシラキュース大学のオークリーフ(Megan Oakleaf)氏が担当している。
報告書は,大学図書館が設置母体に対してその価値を示すことが求められていることを背景に,ACRLの参加館や大学・研究コミュニティに以下の3つを提示することを目的としている。
- 図書館の価値に関する文献のレビュー
- 大学図書館の価値を示すための直近の「次なるステップ」
- 大学図書館の価値を明確にするための「リサーチ・アジェンダ」
報告書の特徴として,大学図書館に関する文献のレビューだけではなく,学校・公共・専門の各図書館に関する文献のレビューについても相当数のページが割り当てられていることがある。その理由は,学校・公共・専門の各図書館に関する文献に記されている図書館の価値を示すための数多くのアプローチの例が,大学図書館にも活かされうるからだという。また,この報告書は図書館外の関係者に対して図書館の価値を明確にすることに焦点が当てられているため,図書館内部のプロセスに係わる評価基準や,質についての外部理解,図書館サービスに対する満足度などについては強調していないとのことである。
「次なるステップ」の章では,大学図書館がその価値を示すための具体策が提案されている。成果(outcome)の定義,学生の在籍率や卒業率の向上と図書館の関係の明示化,学生の学習に対する図書館の影響力の提示と強化などさまざまな策が挙げられているが,章の冒頭では「最も重要なステップは始めることである」とも述べられている。
「リサーチ・アジェンダ」では,図書館の価値に関する調査・研究を行う際に対象となりうる要素について,学生の入学,学生の在籍・卒業,学生の成功,学生の達成,学生の学習,学生の経験,教職員の研究生産性,教職員の助成金,教職員による教育,機関の名声,という10のカテゴリーに分けて述べられている。例えば「学生の入学」すなわち「図書館がどのように学生の入学に貢献しているのか」では,図書館が学生の入学に当って一定の役割を果たしていることを提示することで図書館の価値を示すことができるとされている。具体的な活動として,入学希望者向けのイベントや新入生オリエンテーションに参加することや,図書館員が学生のアドバイザーになることなどが考えられている。
結論部分では,大学図書館の価値を考えることが,サービスとリソースの改善につながり,ひいては図書館の価値を向上させることになるとされている。さらに,価値を示すことだけではなく,価値のあるものになるよう注力することが重要であると述べて括られている。
Ref:
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/acrl/issues/value/val_report.pdf
http://www.libraryjournal.com/lj/community/academiclibraries/886800-265/acrl_report_offers_guidance_for.html.csp