E1100 – 公共図書館の情報を伝えるためのキャンペーン(英国)

カレントアウェアネス-E

No.180 2010.10.07

 

 E1100

公共図書館の情報を伝えるためのキャンペーン(英国)

 

 2010年9月6日、英国で「図書館のための声」(Voices for the Library)というキャンペーンが始まった。このキャンペーンは、マンチェスター大学の情報センターに勤務するルドック(Bethan Ruddock)氏や、ロンドンの公共図書館員のグリーン(Gary Green)氏など、館種を超えた有志9名により、ボランティアで運営されている。

 「図書館のための声」は、図書館利用者や図書館員など公共図書館に関わる人々から、英国の公共図書館サービスと図書館員が行っている仕事に関する事実を「声」として集め提供するものである。公共図書館に関する情報が一面的にしかメディアで報じられていないのではないかという、主催者たちが一様に感じている危機感を背景として、メディアで報じられない公共図書館のもう一つの面を伝えるべく、このキャンペーンは始められた。主催者たちがそのように考える直接的な要因となったのが、英国公認公共財務会計協会(CIPFA)が毎年発行する、英国の公共図書館統計(E330参照)の内容とそれに基づく議論であった。

 CIPFAの統計によると、2009年度における英国の公共図書館の来館者数は前年度比1%減であったのに対し、貸出件数は前年度に比べ1%増加し、さらに図書館ウェブサイトへのアクセス数は前年度比49%増であった。キャンペーン主催者によると、来館者数の減少はオンラインサービスの進展と関連があるもので、例えば、以前のように貸出予約を来館して行う代わりに、現在のようにインターネットを通じて行うと、その1回分の来館数は減ることになる。したがって、来館者数の減少はただちに図書館サービスの低下を意味するものではなく、図書館利用者のニーズに応えるために、図書館サービスが変化し発展していることを示すものであるという。それにもかかわらず、メディアでは英国における公共図書館の利用減少のみを報じていたので、「話の半分しか伝えていない」とキャンペーン主催者たちは憂慮したのであった。

 主催者たちはこのキャンペーンの目的を次の3点にまとめている。

  • 公共図書館および図書館員からのポジティブなストーリーを共有すること
  • 英国における図書館利用に関する、事実に基づいた情報を提供すること
  • 専門的な知識を持ち、積極的に図書館の現状を訴えることのできる人物をメディアに提供すること

 キャンペーンで集められた「声」を2件紹介する。1つ目はある地方都市の図書館アシスタントの女性の話である。彼女の「声」には、決して高額ではない給料ながらも、本が好きで本について語ることも好きなために、自分の仕事には満足していること、そしてとりわけ幼児に読み聞かせをすることに深い充実感を感じていると記されている。もう一つはポーランド生まれで2001年に渡英した女性の話で、そこには、彼女がサウサンプトンの公共図書館の資料を利用することで、英語を話すことができるようになり、さらには以前ポーランドで働いていたのと同じ図書館員の職を得ることにつながったとある。このように統計データでは表われない草の根からの声が「図書館のための声」のウェブサイトには投稿されている。

Ref:
http://www.voicesforthelibrary.org.uk/wordpress/
http://www.cipfasocialresearch.net/libraries/
E330