E1101 – 生涯学習における博物館・図書館・文書館の役割(英国)

カレントアウェアネス-E

No.180 2010.10.07

 

 E1101

生涯学習における博物館・図書館・文書館の役割(英国)

 

 2010年9月3日に,英国の生涯学習に関する調査プロジェクト“Inquiry into the Future for Lifelong Learning”が,『博物館・図書館・文書館はどうすれば生涯学習に貢献できるのか』(How museums, libraries and archives contribute to lifelong learning)と題した報告書を刊行した。このプロジェクトは,成人の継続教育に関する国立の機関である“The National Institute of Adult Continuing Education”(NIACE)が2007年に開始したものである。

 報告書は,その冒頭で,博物館・図書館・文書館(以下,MLA)も学習というものがサービスの中心的要素であることは自覚しているものの,MLAは生涯学習で果たすべき役割を十分には果たしていないと指摘している。そこで,MLAが生涯学習の機会を提供する方法を以下の4点で提案している。

  • MLAは学習機会を生み出すために,施設とリソースを,新たな方法で広く提供すべきである。その新たな方法とは,例えば読書サークルなど生涯学習の機会を提供する外部の組織に対しても,施設とリソースを活用してもらえるようにするということである。
  • MLAのネットワークは,生涯学習組織を支えるバックボーンとして機能すべきである。つまり,MLAは,物理的な所蔵資料や学習機会を提供するだけでなく,地域での継続学習や高等教育,コミュニティでの学習提供者に対して,例えばMLAがデジタル化した資料等を提供することで,さらに生涯学習を後押しすることができる。
  • MLAは利用者層の偏りをなくし,サービスを全ての層に広げるべきである。もとよりMLAのサービスは誰に対しても開かれているものであるが,誰がサービスを利用し,そして誰が利用していないのかをよく見て,利用の少ない層に働きかけるべきである。その点から,特に高齢者へのサービスを積極的に拡大すべきである。
  • 公共図書館は地域コミュニティの中で地域の情報のハブとなるべきである。生涯学習の文化が浸透するにつれて,高いクオリティでの情報サービスのニーズは高まることになる。そのため公共図書館はこれまで「読書の提供」の機能を強化してきたように,今後は「情報の提供」の機能を強化すべきである。

 報告書は,以上の提案の他に,博物館を利用した課外学習がきっかけでその後もMLAとの連携が継続された学校の事例紹介,2009年に当時のイノベーション・大学・技能省(現在はビジネス・イノベーション・技能省に改組)によって発行された白書“The Learning Revolution”に掲載されている,英国の博物館・図書館・文書館国家評議会がMLAに生涯学習の要としての役割をはたさせるべく発表した公約の紹介,そして,生涯学習の中心となる成人学習の強化の必要性の指摘を行っている。

 最後に結論では,MLAが生涯学習を提供する機関として,外向きのより積極的な姿勢を持つこと,どのように生涯学習をサポートするのかを明確にすること,MLAがそれ自体価値を持つものなのか,あるいは道具としての価値しかないのかという議論を気にせずに,MLAの持つ力を生涯学習に費やすべきであるということを述べている。

Ref:
http://shop.niace.org.uk/ifll-sector-10.html
http://www.niace.org.uk/news/culture-sector%E2%80%99s-key-role-in-lifelong-learning
http://www.bis.gov.uk/policies/further-education-skills/engaging-learners/learning-revolution-white-paper