カレントアウェアネス-E
No.176 2010.08.05
E1081
Googleによるデジタル人文学への助成
2010年7月14日,Googleが公募を行っていたデジタル人文学(Digital Humanities)への研究助成対象の12プロジェクトが発表された。
「デジタル人文学」とは,ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンにあるデジタル人文学センター(Centre for Digital Humanities)の説明によれば,「デジタルテクノロジーと人文学の接触領域で行われる研究であり,人文学分野と,コンピュータサイエンス及びそれに関連したテクノロジー分野の双方で,新たな研究を可能にするアプリケーションとモデルを作り出すことを目的とするもの」とされている。
Googleは,Googleブックスプロジェクトを通じて,400以上の言語で1,200万冊以上の資料デジタル化を進めている。Googleはこの成果に基づいてデジタル人文学を援助することで,そのデジタル人文学が従来の人文学の方法,すなわち,研究者が膨大な量の文献を読み込み,分析を行うという方法を補うものとなると説明する。それは,人文学研究者が数千数万もの資料を分析するために,デジタル技術を活用するようになるということであり,その意味でGoogleブックスによる資料のデジタル化は,そのためのスタート地点に過ぎないという。
助成対象のプロジェクト名等を一覧して分かるのは,全12プロジェクトがすべて欧米圏のものであり,スペインのマドリード・コンプルテンセ大学の1件を除いて,英米の2か国で占められているということである。助成対象のうち一例を挙げれば,米国イリノイ大学図書館情報学のエフロン(Miles Efron)氏の“Meeting the Challenge of Language Change in Text Retrieval with Machine Translation Techniques”というプロジェクトは,現代英語で検索語を入力しても,中世から現代までの資料のテキスト本文を検索することができるソフトを開発するというものである。またこの研究は,ユーザの検索した結果をユーザの望む形で表示させる課題にも取り組むものであるという。
Googleはこれらの12プロジェクトを選んだ理由について,研究から生まれる技術やツール,そしてデータが広く研究者コミュニティにとって役立つものとなるためと説明している。この研究助成プログラム自体は2年間のものだが,各プロジェクトへの助成は原則1年間であり,1年後の審査の結果によっては,さらに1年の延長もありうるとしている。助成を受けたプロジェクトは,年間上限50,000ドルの研究助成金のほか,Googleのもつツールや専門技術・知識等を利用することができる。また今後1年間,GoogleはGoogleブックスのコーパス(スキャンデータ,テキスト,言語ヒストグラムなどの派生データ)の一部を,法の許す範囲内で研究者と一般にも公開する予定であるという。
Ref:
http://googleblog.blogspot.com/2010/07/our-commitment-to-digital-humanities.html
http://www.ucl.ac.uk/dh/http://www.lis.illinois.edu/articles/2010/07/efron-receives-google-award
http://chronicle.com/article/Google-Starts-Grant-Program/64891/