E1024 – 「デジタル・ブリテン」実現に向けた公共図書館の役割

カレントアウェアネス-E

No.166 2010.02.17

 

 E1024

「デジタル・ブリテン」実現に向けた公共図書館の役割

 

 英国の博物館・図書館・文書館国家評議会(MLA)は2010年1月,公共図書館の「デジタルの提供」(インターネットの提供や利用のための支援等)の現状を把握し,国民のデジタルへの参加(digital participation)を促進するために公共図書館が果たす役割について検討する報告書を発表した。この背景には,英国政府のデジタル化政策「デジタル・ブリテン」(E946参照)がある。「デジタル・ブリテン」を受け,国民のデジタルへの参加促進に向けた国家プランを作成するため,英国情報通信庁が議長を務めるコンソーシアムが立ち上げられた。MLAはこのコンソーシアムのメンバーで,デジタルへの参加促進における公共図書館の役割を検討する任を負っており,本報告書はその一助となるものとして位置づけられている。

 報告書に先立ち,2009年12月に,イングランドの152の図書館行政庁(English Library Authority;地域毎に公共図書館を管理する)を対象とするオンライン調査が実施された(回答したのは,112の図書館行政庁)。図書館行政庁は,それぞれの地方自治体の図書館における,インターネット提供,インターネット利用のための支援,図書館スタッフへのデジタル教育の程度を回答するよう求められた。このように調査はあくまで地方自治体単位のものであり,個々の図書館単位のデータは収集されていない。報告書の主な内容はこの調査の結果となっている。注目すべき調査結果として,下記のようなことが挙げられる。

  • 79%が,インターネットを完全無料で提供している。1時間以内の利用に限れば,91%が無料でインターネットを提供している。
  • 98%が,夜間や週末でもインターネットを利用可能なサービスポイントがあると回答した。
  • 72%が,利用者の支援のため,図書館スタッフ向けのデジタル教育を行っている。
  • インターネットの利用支援を実施しているとした図書館行政庁の割合は,マンツーマンの場合とグループセッションの場合を併せると,9割を超える。利用支援を行うのは,図書館スタッフ,第三者組織,ボランティアの場合があるが,図書館スタッフが担当するケースが最も多い。
  • 64%が,マンツーマンのインターネット利用支援を高齢者向けに実施していると回答した。
  • 86%が,失業者向けのインターネット利用支援を実施していると回答した。オンラインでの職探し支援を実施しているのが76%,履歴書作成支援を実施しているのが71%,ICTスキルの講座を実施しているのが63%となった。
  • デジタルサービスに関する今後の計画を尋ねたところ,61%が電子書籍を始めとするダウンロード可能なコンテンツの導入・拡充と回答した。

 以上のように,調査結果から,インターネットの提供や,利用支援を通じ,公共図書館が人々のデジタルスキルの向上に一役買っていることが明らかになり,「デジタル・ブリテン」実現に向けての公共図書館の役割の重要性が,改めて確認された。

Ref:
http://www.mla.gov.uk/news_and_views/press/releases/2010/digital_participation 
http://research.mla.gov.uk/evidence/view-publication.php?dm=nrm&pubid=992
E946