ウクライナの図書館員はいかにしてロシアの文化戦争に「動員」されたのか?(記事紹介)

スコットランドの日刊紙“Scotsman”に、2022年8月7日付で、記事“How Ukraine’s librarians mobilised to fight the Russian culture war”が掲載されました。

ウクライナでは、2022年2月にロシアによる侵攻が始まって以降、少なくとも60の図書館が破壊され、230以上の図書館が砲撃や戦闘によって被害を受けたとあります。

ウクライナの図書館は侵攻が始まった直後から、地下鉄の駅に避難している人々に本を提供するイニシアチブを立ち上げ、図書館の建物内に国内で避難を余儀なくされている人々のためのセンターを設立し、軍事機器や必需品を供給するためのハブとなるなど、機能が多様化したとあります。現在多くの図書館は、ウクライナ軍や故郷を追われた避難民を支援するためのボランティアのソーシャルセンターに姿を変えており、大都市では図書館の地下室をシェルターとして提供し、娯楽も提供しながら24時間体制で運営しているとあります。

また、ウクライナの図書館員は国際ボランティアと協力して“Saving Ukrainian Cultural Heritage Online (SUCHO)”を設立し、これまでにウクライナの文化施設の5,000以上のウェブサイトと50TBのデータをアーカイブしたとしています。将来的には、図書館の蔵書がさらに消失することを懸念し、保存のためのデジタル化が望まれているとしています。

国のいくつかの地域では、ウクライナ文化の一部として文学が主要な標的の 1 つとなっていることや、世界中に避難している人々の状況を鑑み、ウクライナの文字文化や言語を維持するためのリテラシー関連のプロジェクトが進行中であるとし、ユネスコ等による幼児向けの電子書籍をウクライナ語に翻訳して提供する“Translate a Story Ukraine”キャンペーン等を挙げています。

図書館ネットワークが結集してきている一方で、国内の約1万5,000の図書館のうち、2,475の図書館が閉鎖されている現状についても述べられています。

How Ukraine’s librarians mobilised to fight the Russian culture war(The Scotman, 2022/8/7)
https://www.scotsman.com/news/world/how-ukraines-librarians-mobilised-to-fight-the-russian-culture-war-3796419

参考:
ユネスコ、“Translate a Story Ukraine”キャンペーンを開始:幼児向け電子書籍をウクライナ語に翻訳
Posted 2022年5月11日
https://current.ndl.go.jp/node/46098

ウクライナのデジタルアーカイブをバックアップする:SUCHOにボランティアとして参加する図書館員等の取組(記事紹介)
Posted 2022年4月18日
https://current.ndl.go.jp/node/46002

図書館は「希望の島」であり続ける:ウクライナの図書館がロシアの侵攻にどのように対応しているか(記事紹介)
Posted 2022年4月14日
https://current.ndl.go.jp/node/45991

ウクライナの文化遺産保護のための動き(記事紹介)
Posted 2022年3月10日
https://current.ndl.go.jp/node/45759

ウクライナの文化遺産関係機関のオンライン上のデータを保存するプロジェクトが実施中
Posted 2022年3月8日
https://current.ndl.go.jp/node/45738

ロシアによるウクライナへの侵攻に対する、国立図書館・文書館・博物館および関係機関等の声明
Posted 2022年3月1日
https://current.ndl.go.jp/node/45704

E2483 – ロシアによるウクライナ侵攻に関連する図書館・博物館の状況
カレントアウェアネス-E No.433 2022.04.21
https://current.ndl.go.jp/e2483