英国の永続的識別子コンソーシアムについての費用便益分析に関する報告書が公開

2021年6月21日、MoreBrains Cooperative のJosh Brown氏らによって執筆された報告書“UK PID Consortium: Cost-Benefit Analysis”が公開されました。この報告書は、オープンリサーチへの移行における摩擦を減少させるために永続的識別子(PID)をどのように使用できるか調査する複数年プログラムの一環として、2021年初頭に英・Jiscにより委託されたものです。

この報告書では、PIDの採用と使用の現在のレベル、それらがもたらした可能性のある利点、および実現されていない潜在的な利点に関する調査結果を示しています。コスト削減に関する計算の大部分については、広く使用されているPIDであるORCID IDとDOIに焦点を当てています。

報告書のエクゼクティブサマリとして、以下を含めた事項が挙げられています。

・現在の論文と人へのPID付与のレベルに基づくと、国のPIDコンソーシアムを設立することには、5年間で567万ポンドと推定されるコスト削減を含めた大きなメリットがある。これは、3年目までに67%、5年目までに85%というPID付与の目標を達成できた場合である。

・上記のコスト削減は、助成金、プロジェクト、および論文のメタデータの再入力にのみ関連する。自動化および集約/分析等に関するその他の削減も大きい可能性がある。英国が研究とイノベーションに年間371億ポンドを費やしていることを考慮すると、公的機関と民間部門による意思決定のためのより良いデータの経済的利益はさらに大きな可能性を秘めている。

・コンソーシアムを設立することは、ベンダーへの影響力の拡大、アプローチの一貫性、メタデータとワークフローの移植性、コラボレーションの容易さ等、無形のメリットを提供する。

・国のPID戦略とその実施は研究集約型機関に偏りがちであるが、戦略の利点はセクター全体の賛同と参加によってのみ実現される。このイニシアチブを確実に成功させるには、より小規模でより専門的な機関と連携し、支援することが重要である。コンソーシアムアプローチは、経済的利益をもたらすだけでなく、労力の重複を減らし、文書化と標準化を改善し、地域のITスタッフと管理者を支援するコミュニティリソースを提供することによって、これらの小規模機関の参加を促進する。

・このイニシアチブの成功に必要な文化的および行動的変化は、技術的実装よりも困難である。利害関係者の関与には、明確なロードマップが必要である。例えば、Researchfishでの出版物リストの自動更新や、CrossrefとDataCiteを介したORCIDレコードへの自動追加等、実用的なメリットを実証できる場合、研究者はPIDの使用を選択する。

UK PID Consortium: Cost-Benefit Analysis(Zenodo, 2021/6/21)
https://doi.org/10.5281/zenodo.4772626

参考:
永続的識別子が様々な版の学術レコードをつなげる(記事紹介)
Posted 2021年2月25日
https://current.ndl.go.jp/node/43367

英・Jisc、永続的識別子(PID)の適切な利用によるオープンアクセス(OA)のワークフロー効率化に関する説明文書を公開
Posted 2018年11月9日
https://current.ndl.go.jp/node/37007

英国高等教育機関における研究者識別子ORCIDの利用と将来展望(文献紹介)
Posted 2013年9月17日
https://current.ndl.go.jp/node/24383