プレプリントの迅速な評価と科学ジャーナリストへの情報提供を可能にするサービスの構想 (記事紹介)

2020年7月20日付けでThe New York Timesに”How to Identify Flawed Research Before It Becomes Dangerous”という題目のオピニオン記事が掲載されています。執筆者は米・カリフォルニア大学バークレー校の生物学者Michael B. Eisen氏と米・スタンフォード大学の統計学者Robert Tibshirani氏です。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、プレプリントによる迅速な研究成果の共有が進みました。一方、論文の初期の版を公開することで「政策立案者と一般市民が、深刻なエラーがある研究成果をもとに行動を起こさないようにするにはどうしたらよいか」といった課題が生まれたことを指摘しています。プレプリントのエラーはTwitter、ブログ等で指摘されますが、現代のジャーナリズムの速さ、およびプレプリントに対するマスコミや一般の理解の欠如によって、その研究成果はおおよそ額面通りに受け取られてしまうと述べています。

これらの課題を解決するために、著者を含めた100人以上の科学者のグループは世論の関心に関するプレプリントの迅速な査読サービスの立ち上げを、米国の科学者とジャーナリストに呼びかけています。このサービスは、新規投稿されたプレプリントについてコメントできる科学者を集め、ジャーナリストへ対応することを可能とします。これにより、ジャーナリストは科学者へのコンタクトが可能となり、急増するプレプリントに対処することが可能となります。

このサービスは、科学とジャーナリズムを媒介している他のジャーナルや組織と連携する可能性が指摘されています。例として、米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science; AAAS)によって運営されているジャーナリスト向けの無料サービスであるSciLineが挙げられています。SciLineは、毎年数百もの科学者へのインタビューを仲介しており、英国、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドにも同様の組織が存在します。

このサービスはまた、米国統計協会(American Statistical Association)などの専門組織と協力して、ジャーナリストのスケジュールに応じて、新規投稿されたプレプリントを評価するために必要な専門知識を持つ有志のチームを募集すると述べています。

最後に、科学者がジャーナリストに研究をよりよく理解してもらい、実用的なメッセージを伝えるために必要なツールを提供することへの著者の願いが述べられています。

How to Identify Flawed Research Before It Becomes Dangerous(The New York Times, 2020/7/20)
https://www.nytimes.com/2020/07/20/opinion/coronavirus-preprints.html

参考:
感染症拡大下でのプレプリントサーバによるスクリーニング(記事紹介)
Posted 2020年5月15日
https://current.ndl.go.jp/node/40957