機関リポジトリにセルフアーカイブされる著作物の権利問題に関する資料種別ごとの実用的な担当者向けガイド(米国)(文献紹介)

2019年11月30日付けで、Journal of Copyright in Education and Librarianship誌のVol. 3 No. 3に、“Checking Rights: An IR Manager’s Guide to Checking Copyright”と題する記事が掲載されています。記事は米・西オレゴン大学のStewart Baker氏・Sue Kunda氏の共著により執筆されました。

同記事は米国の機関リポジトリ担当者を想定して、登録される代表的な資料の種別、資料種別ごとの潜在的な著作権問題、その他の考慮事項、参考になる情報源等を解説・紹介した実用的なガイドとして作成されています。

まず資料種別によらず、担当者が抱える共通の問題として、学術的な著作物が「職務著作」に当たるかどうかの判断、教員・学生の著作権に関する知識の不足に起因する問題等が取り上げられています。前者については、判例でも明確な判断はなく機関内で明文化された規定がないと関係部署へ個別に問い合わせの必要な場合があること、後者については、セルフアーカイブを教員・学生が自発的に行えないことや引用・分析等に使用した第三者の著作物を適切に処理できないことに対して、ガイダンス等で啓発が必要であることなどに言及されています。

続いて、機関リポジトリに登録される代表的な著作物と担当者が注意すべき点が資料種別ごとに紹介されています。教員等の研究成果による著作物としては、雑誌論文・単行書と単行書の中の章・会議発表用の予稿・政府助成による著作物・政府職員による著作物などが取り上げられています。それぞれの種別に対して、著作権調査のための代表的な情報源や資料のその後の公開状況に合わせた対応例、法的な論点などが紹介されています。

学生による著作物については、治験に関する研究成果の場合に治験審査委員会の承認を経ているか、学生の著作物は「家庭教育の権利とプライバシーに関する法(Family Educational Rights and Privacy Act:FERPA)」で規定されたプライバシー情報に当たるためセルフアーカイブにあたってこれをクリアする適正な手続きを経ているか、学生のみの会議等で発表された公開を前提としない著作物への対処など、学生特有の問題に関して解説されています。また、電子学位論文については、その後の書籍化を意図している場合や発表済の文献を編集して学位論文化する場合など、典型的な事例について学会・出版社等の見解を示しながら解説が加えられています。

さらに、著作権の保有者に関する議論が一層複雑な資料種別である研究データ・アーカイブ資料・口述記録についても、担当者がしばしば直面する事例・法律上の論点を中心に解説されています。

Baker, S. C.; Kunda, S. Checking Rights: An IR Manager’s Guide to Checking Copyright. Journal of Copyright in Education and Librarianship, 2019, 3(3), 1-29.
https://doi.org/10.17161/jcel.v3i3.8248
https://www.jcel-pub.org/jcel/article/view/8248
https://www.jcel-pub.org/jcel/article/view/8248/12553
※三つ目のリンクが本文です[PDF:30ページ]

参考:
E1707 – 博士論文のインターネット公表化に関する現況と課題の調査
カレントアウェアネス-E No.288 2015.09.10
https://current.ndl.go.jp/e1707

E1677 – 仏・独における電子版博士論文のOAに関する調査<文献紹介>
カレントアウェアネス-E No.281 2015.05.21
https://current.ndl.go.jp/e1677

E1265 – ARLが米国の大学図書館等におけるフェアユースの基準を公表
カレントアウェアネス-E No.210 2012.02.23
https://current.ndl.go.jp/e1265

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Posted 2019年11月29日
https://current.ndl.go.jp/node/39630