ドイツ経済学中央図書館(ZBW)の運営するオープンサイエンス・情報インフラ等に関する話題を扱ったブログ“ZBW MediaTalk”は、2019年10月1日付で、ブログ記事“Open Access in Finland: How an Open Repository becomes a Full Service Open Publishing Platform”を投稿しました。
同記事は、フィンランドの応用科学大学(University of Applied Sciences)コンソーシアム“AMKIT-Konsortio”が共同運営するリポジトリサービス“Theseus”等のネットワークによる、オープンな研究成果物公開プラットフォームの展開を紹介したものです。フィンランドの応用科学大学図書館員で、Theseusのヘルプデスクを担当するTiina Tolonen氏とMinna Marjamaa氏が同記事を共同執筆しています。
Theseusは応用科学大学の研究成果物等を公開するリポジトリサービスとして2009年に立ち上げられました。25の応用科学大学がポリシーやヘルプデスクを共有し適度な費用負担で運営されるTheseusは、当時としては斬新なサービスで、現在では全ての大学に開かれた国内最大のオープンリポジトリに成長し、学士論文・修士論文が合計約16万点収録されるなど成功を収めています。しかし、フィンランドの学術情報流通においては、教育・文化省への研究成果報告が最新研究情報システム(CRIS)と連携せずに行われていること、研究成果物の長期保存に関する国内的なコンセンサスが確立していないこと、などの課題が明らかになっていました。
こうした課題やHorizon 2020に代表される公的助成を受けた研究成果のオープンアクセス(OA)化を目指す欧州規模での動向等を背景として、25の応用科学大学、フィンランド国立図書館、国内の大学等へITサービスを提供する非営利機関CSC (IT-Center for Science)、フィンランド国立公文書館が共同して、2019年5月に新しいサービスを立ち上げました。
新サービスは、Theseusと簡易CRISとして機能するCSCの構築した出版情報報告サービスJUSTUS、及び全国出版情報サービス・長期デジタル保存サービスのネットワークによるオープンな研究成果物公開プラットフォームとして展開されています。JUSTUSからは全国レベルの機関データを統合し研究成果登録簿・データウェアハウスの役割を持つ出版情報サービスVIRTAへ直接情報を入力することが可能になっています。VIRTAはフィンランド国内で生産された全ての研究成果物の書誌情報を持つデータハブの役割も果たしており、VIRTAの情報は、フィンランド統計局等が整備する教育データポータルサイトVipunenに教育統計情報として転送される一方、フィンランド国立図書館の運営する研究成果物の書誌情報検索サイトJuuliへも転送されます。
研究者がJUSTUSへ著者最終稿をアップロードすると、必要な情報と研究成果物がリポジトリTheseus、教育・文化省、大学の統計サービス部門へ転送される仕組みが構築されています。また、Theseusとフィンランド国立公文書館のデジタル保存サービスとのネットワークも構築され、応用科学大学の学位論文が国立公文書館の求める要件を満たす形で、Theseusからエクスポートされ電子的に長期保存されるようになっています。
両氏は今後の展望として、2020年初頭に入手できる統計データにより新サービスの成果を評価すること、現在の簡易CRISが実際のCRISに近づくように開発を進めること、研究成果物の公開だけでなくオープンデータ等にも対象範囲を広げること、などを挙げています。
Open Access in Finnland: Wie aus einem Open Repository eine Open-Publishing-Plattform mit Full-Service wird(ZBW MediaTalk,2019/10/1)
https://www.zbw-mediatalk.eu/de/2019/10/open-access-in-finland-how-an-open-repository-becomes-a-full-service-open-publishing-platform/
Open Access in Finland: How an Open Repository becomes a Full Service Open Publishing Platform(ZBW MediaTalk,2019/10/1)
https://www.zbw-mediatalk.eu/2019/10/open-access-in-finland-how-an-open-repository-becomes-a-full-service-open-publishing-platform/
Theseus
https://www.theseus.fi/
JUSTUS
https://justus.csc.fi/
関連:
Odotettu Justus–Theseus -integraatio avattu(AMKIT-Konsortio)
http://www.amkit.fi/amkit-konsortio/ajankohtaista/
参考:
E1791 – 欧州におけるCRISと機関リポジトリの連携の現状
カレントアウェアネス-E No.302 2016.04.28
https://current.ndl.go.jp/e1791
EU競争力担当相理事会、2020年までにすべての公的資金による学術出版物をオープンアクセス化することで合意
Posted 2016年5月31日
https://current.ndl.go.jp/node/31703
フィンランド国立図書館がフィンランドの大学の研究成果の書誌情報を検索できるウェブサイト”Juuli”を公開
Posted 2013年10月7日
https://current.ndl.go.jp/node/24535