学術書籍の将来に関する10の動向:出版業界へのインタビューから(記事紹介)

学術情報流通に関連した話題を提供する学術出版協会(Society for Scholarly Publishing:SSP)運営のブログ“The Scholarly Kitchen”に、2023年5月4日付けで記事“10 Trends I Observed Interviewing 10 Publishing Executives About the Future of Academic Books”が掲載されています。筆者は英語を第一言語としない執筆者向けの支援サービスを展開するAcademic Language Experts社のCEOであるAvi Staiman氏です。

記事では、学術情報を中心に発信するポッドキャスト“Scholarly Communication”のホストも務める筆者が、出版社幹部10人にインタビューした経験をもとに、学術書籍の将来に関する10の動向を紹介しています。

1.オープンアクセス(OA)書籍出版に関しては、BPC(Book Processing Charge)やクラウドファンディング、“Path to Open”や“Subscribe to Open”等の様々な取り組みがあるが、持続可能なモデルに関してコンセンサスはまだ得られていない。

2.大学の学術出版社はその個別のビジネスモデルや条件に関係なく、利益追求に固執しているなどの評価に悩まされている。

3.大学出版社の多くは、十分な利益が上げられておらず、その母体となる組織の支援頼みの状況である。

4.出版社は、収益性や執筆者の多様性の確保などのバランスを考慮しつつ、何を出版するかの優先順位をつけるのに苦労している。

5.Amazonは出版社の売り上げを大きく左右するようになっている。

6.大学出版社がより大衆受けのする一般書の刊行を好むようになっている現状があり、伝統的な専門書の出版を求める学術界との齟齬が生じている。

7.多くの出版社が収支改善の鍵は、顧客の拡大であると考えている。

8.科学・技術・医学(STM)分野と人文・社会科学(HSS)分野は全く対極である。

9.大手の出版社による変革的な協定やそれに伴う支援の動きに際して、書籍は蚊帳の外になりがちである。

10.出版社は業務のアウトソーシングが進むなかで、どう自分たちの付加価値をもたらすかに悩まされている。

10 Trends I Observed Interviewing 10 Publishing Executives About the Future of Academic Books(The Scholarly Kitchen, 2023/5/23)
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2023/05/23/10-trends-i-observed-interviewing-10-publishing-executives-about-the-future-of-academic-books/

参考:
英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)、“Open Book Futures” への参加を表明 [2023年05月02日]
https://current.ndl.go.jp/car/181099

JSTOR、学術書のオープンアクセス出版を支援するプログラム“Path to Open”のパイロット実施を発表 [2023年01月24日]
https://current.ndl.go.jp/car/171334

CA1907 – 動向レビュー:欧州における単行書のオープンアクセス / 天野絵里子
カレントアウェアネス
No.333 2017年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1907