カレントアウェアネス
No.186 1995.02.20
CA989
BLR&DD設立20周年「情報における革新」
英国図書館研究開発部(BLR&DD)が,全英的な図書館情報学の研究開発プロジェクトの資金助成機関として誕生して,今年は20年目を迎え,それを記念するOPEN DAYが標記タイトルをテーマとして1994年11月16日ロンドンのChurch Houseで開かれた。
同部の前身は,科学・産業研究省(当時)から派生した科学技術情報局(OSTI)であるが,その科学技術情報諮問委員会委員長のDainton卿が全英図書館委員会委員長として英国図書館創立の立役者となり,また同局の局長Hookwayが初代英国図書館長に任命されるなど,同図書館と研究開発部との結びつきには深いものがある。その根底には,図書館の情報サーヴィスは常に革新されるべきものであり,そのためには図書館情報学の研究開発の成果が不可欠である,との哲学があるものと思われる。そして実際に,同図書館の新しいサーヴィスにその成果は反映されている(その一例がInitiatives for Access, CA960を参照)。
同部の20年にわたる研究開発助成の結果は,約1500に上るリポートの中に見ることができる。もちろんそれらのすべてが,学術的に水準を越え,その後の研究や図書館サーヴィスに大きな影響をもったとは言い難いが,それらが全英レヴェルでの図書館情報学と図書館業務の発展に大きく貢献したことは疑いない。その具体的事例として,当日は同部の継続的な助成によって進展した五つのプロジェクトが,成果のデモンストレーションを伴って紹介されていた。それらは,電子ジャーナルに関するELVYN,図書館統計のLISU,人文情報を扱うOHC,OPACを発展させたOKAPI,図書館情報ネットワークのUKOLNであり,現在前二者がLoughborough大学,以下それぞれOxford大学,City大学,Bath大学が運営しているが,単に各大学内の研究活動としてではなく,全英のセンターとして機能していることが重要である。
例えば,UKOLNは,Bath大学における目録の比較研究に対する助成が,書誌コントロール全体の運営研究に展開し,それがさらに1992年に全英レヴェルの図書館情報ネットワーク研究のセンターとして発展したものである。このように,BLR&DDの活動は,研究助成を通じて研究成果を生み出すだけではなく,それが実際に図書館業務に適用され(LISUによる全英図書館統計の確立はその典型),また今後の研究開発の核となる研究者や研究機関を副次的に育ててきたことに大きな意義があった。
このような研究成果の展示以外に,OPEN DAYでは同部の多様な活動(コンサルティング,国際協力,出版事業,資料保存等への助成など)を紹介するコーナーが幾つも設置され,参加者は自由に同部の各担当者の熱心な解説を受けることができた。また,三つのセミナーが同時に開催され,そのうち二つは応募者多数のため各二回行われることになったそうである。参加者には学校図書館員,情報コンサルタント,出版関係者など研究助成には直接関係しない人も多数あり,同部への関心の広さを伺わせた。
政府全体の緊縮財政のもと,同部の予算は物価上昇を考慮すると,設立時の81万ポンドから20年間で半分以下になっており,助成対象テーマの選定にも影響を及ぼしている。しかし,OPEN DAYにおいて見せたこれまでの実績と,今後に対する参加者の期待を考えるとき,同部の将来の活動の重要性が減じることは決してないであろう。
柳 与志夫(やなぎよしお)