CA960 – デジタル化によるアクセスの改善−BLの試み− / 岡久慶

カレントアウェアネス
No.181 1994.09.20


CA960

デジタル化によるアクセスの改善 −BLの試み−

1994年3月27日,“The British Library's strategic objectives for the year 2000”が発表された。英国図書館(BL)が2000年までに達成する目標の数々がここにある。この「目玉」はセント・パンクラス館(CA868CA913参照)への移転を−今度こそ−完了させるという決意表明であるが,その他にも図書館の機械化,新しい科学技術の導入による図書館資料の利用(access)機能促進などが目を引く。具体策として打ち出されたのが,“Initiatives for Access Programme”である。すでにInitiatives for Access Newsという広報誌の第一号が刊行され,この計画に対するBLの意気込みが感じられる。現在17プロジェクトが進行中だが,Newsに掲載されたものを紹介してみよう。

1) Electronic Photo Viewing System :電子写真に撮った絵画,写真を画面上で閲覧するシステム。ガラス原板からとったヴィクトリア朝期の心霊写真,インドの細密画,切手,ポピュラーの楽譜カバー,本の挿絵など今まで利用できなかった絵画資料六千点が入力され,件名索引をはじめとするキーワード,キーグループで検索する。画像をプリントすることもできる。いずれはオンライン・ネットワークで画像を送る予定。

2) PixTex/EFS自動索引検索システム:文書を語の厳密な綴りからではなく,パターンによって検索する全文検索のためのソフトウェア。OCRの弱点を克服し,文書の誤植にも対応できる。文書を外の装置から電子転送するか,直接スキャンすることにより入力する。そこから,利用者が指定した手がかりに最も近いものを探しだす。文書を画面上で見るのも,プリントするのも可能。現在デジタル化された初期の新聞記事で実験中。

3) Patent Express Jukebox :イギリス,ヨーロッパの特許条約,アメリカの特許の最新情報100万件を記憶した千枚のCD-ROMが,12の連結したジュークボックスに収納されている。科学参考情報サービス(SRIS)が所蔵する世界最大の特許コレクションが用いられ,情報は約2分で検索され,レーザープリントされる。将来的には完全に機械化されたサービス−すなわちパソコン通信ネットワークによる受注とファックスゲートウェイによる送信−を計画中。

4)「べーオウルフ」写本のデジタル化:BLが唯一所蔵する,古英語の英雄叙事詩「べーオウルフ」の11世紀の写本を,1インチ300ドットの写真に撮りデジタル化。現在Internet上でイメージ送信のテスト中。CD-ROM版の作成も計画中。

5)貴重資料のデジタル化:St. Pancras Treasures Galleryに展示される貴重書は,陳列ケースの中で開かれたページしか見ることができない。こうした芸術的,歴史的に価値のあるものをデジタル化して公開。現在までに,レオナルド・ダ・ヴィンチのノート,マグナカルタ,リンディスファーン福音書などがデジタル化された。

6)電子保存:イメージデモンストレーター・プロジェクトと呼ばれる,雑誌を電子保存する試み。スキャナーと2つのワークステーション(1つは索引情報の入力,もう一つはページの画像検索用),RS6000プロセッサー,光学的,および磁気的保存装置からなる。利用者からの依頼は直接イメージデモンストレーターに送られ検索,高速プリンターで印刷される。現在,50タイトルの雑誌を使って実用テストを続行中。

7) Network OPAC :セント・パンクラス館で利用するために開発されたオンライン目録がJANET (英国の高等教育機関を結ぶ通信ネットワーク)を通して外部からのアクセスが可能になった。情報量は約600万件。ギリシア語,キリル語,ヘブライ語による検索もできる。接続仕様は決まっており,必要なクライアント・ソフトウェアはBLが提供する。1995年3月まで国内の機関には無料の試用サービスを実施中。

8)マイクロフィルムのデジタル化:BL所蔵マイクロフィルム約20万リール以上の中から,劣化が進み,さらに閲覧者の利用の多いものを選んでデジタル化。資料がより使いやすくなるだけではなく,利用者の反応を参考にして計画を推進できる。主な資料は17世紀のバラードや,販売力タログ,17〜18世紀の新聞コレクションなど。マイクロフィルムはスキャナーにロードされ,フレームごとにスキャンされる。デジタル化された画像は圧縮され486PCワークステーションに収蔵された後,光磁気ディスクに入力される。索引づけにはDIP Packageを考慮中。

9) Portico:Gopher server(CA945参照)を使用するオンライン・インフォメーション・システム。近々Internetで使用可能になる予定。求める資料の情報を得るためには17ある閲覧室のどこにいけばいいのか,公演,講義,展示,文献提供,書誌へのアクセス,研究発表,BL出版物の情報などが得られる。情報の更新が簡単だというメリットがある。

このように新時代の図書館像を先取りする野心的な戦略目標だが,計画の中枢はすでに末期症状を呈している。

セント・パンクラス館の建設が始まって既に12年,当初1980年代後半には完成が予想されていた新図書館は,現在開館日のめどすらたっていない。一方,必要経費は増大し,総額1億6400万ポンドの当初の見積もりがすでに3億3600万ポンドを消化し終わり,最終的には最低でも4億5000万ポンドに達するだろうという。6月30日のインディペンデント紙は「遅延,請求書,そして非難の図書館三部作」と題した記事でこの問題を取り上げているが,原因は次の三点に要約できる。必要経費を全て支出した上で業者と合意したマージンを払う契約の方式,下請を含めて27社がひしめき合い責任の所在を明確にするのが困難な現場,そして計画,設計,現場の状況のほとんどが「営業上の理由」から外部のチェックを受けないことだ。

1945年以来のイギリス最大の公共建築現場,ここで活躍(暗躍?)著しいのが,複数の業者によって派遣された「品質保証チーム」である。どんな大事業でも備品の点検は10%程度で済ませるのが通例だが,セント・パンクラスでは彼らのお陰で100%。これまでに摘発された「ミス」はおよそ20万件。そしてそのつど工事が一からやり直される。漆喰が設計図の細部と合わなかったという理由で40万ポンドの廊下を取り替えてしまうほどの念の入れようだ。このため工事は延々として進まず,業者たちは「はからずも」当初の計画をはるかに上回る時間と経費を費やすことを「余儀なく」された,というわけである。目下管理の不手際と,業者が意図的に工事を遅らせているという疑惑を解明するため国立会計検査局の手入れが予定されており,それが政府による業者告訴へと発展する可能性が高い。長引く訴訟は,ただでさえ遅れた建築にさらなる打撃を与えることになるだろう。

さらに,たとえ完成しても,新館には今の蔵書を収容するだけのスペースがなく(ましてやこれから納本される本や,新聞コレクションの収容など問題外),このためセント・パンクラス北に隣接する土地を確保しておかなければならないが,将来どれだけ収容スペースが必要になるか,新館が数年間機能してみなければ正確に見積もることができないことが下院の国民文化財委員会により指摘されている。

新館への轟々たる非難は,事業の失態とスキャンダル疑惑に集中しているわけではない。昔ながらの円形大閲覧室にこだわる常連閲覧者は移転に対して根強く反対し,また一方では非能率的な出納手続(出納に平均5時間かかる)の改善要求や,新館建設に費やす金を現在の制度や整備の近代化にあてろという声もある。

この四面楚歌の状態をどう乗り切っていくのだろうか。BLのこれからの努力に注目したい。

岡久 慶(おかひさけい)

Ref:Initiatives for Access News 1 1994.5
Guardian 1994.5.30
Independent 1994.6.30; 7.1; 7.2; 7.21