カレントアウェアネス
No.141 1991.05.20
CA736
納本制度と電子出版
−CDNLのアンケート調査の結果概要−
1987年8月のCDNL(国立図書館長会議)において,電子出版物に対する現行納本規定の適応性の問題がとりあげられた。このテーマは国立図書館としての対応が求められる問題であり,今後の論議のために各国の現状について情報を集めることになり,1989年2月にカナダ国立図書館が112の国立図書館へ質問票を送付した。これに対し46館から回答があった。
その概要を紹介する。なお,CDNLではその後この件についてノルウェー国立図書館を中心にワーキンググループを設けて検討が続けられている。
質問票では,電子出版物の収集,書誌コントロール,著作権,アクセスについて情報を集めることを目ざし,最後にCDNLメンバーがこの主題について引きつづき検討を行なう意志があるかどうかをたずねた。電子出版物は,電子メディア出版物(磁気テープ,磁気ディスク,光ディスク等)とオンライン出版物(通信回線を通じて利用可能なデータベース類)の二つに分けて設問してある。
結果の概要は以下のとおり(質問項目によって回答館数は異なる)。
○収集の状況について | |
電子メディア出版物を収集している | 14館 |
うち納本制度によるもの | 6館 |
オンライン出版物を収集している | 10館 |
うち納本制度によるもの | 0館 |
○納本制度規定とオンライン出版物について | |
収集が可能な規定がある(但し,該当の出版物なし) | 1館 |
規定改定に着手する方向にある | 13館 |
これから検討 | 24館 |
2館が法定納本を適用したいと述べ,そのやり方は一定期間の間隔をおいてコピーを収集する方法を考えている。10館は購入その他の協定合意によって利用者からの要求があり次第オンラインへアクセスするやり方をとっている。 | |
○国立図書館以外の収集責任機関の有無 | |
ある | 8館 |
ない | 回答の大多数 |
○電子出版物と書誌コントロールについて | |
全国書誌に収載している | 6館 |
うち1館は国立図書館以外の機関が目録を作成 | |
全国書誌に収載していない | 34館 |
○利用者のアクセスについて | |
電子出版(電子メディア,オンラインの双方を含め)へのアクセスを提供 | 回答館の半数 |
これらの館では端末,プリンタ等の機器を維持し続けている。 | |
○新しい機器の登場等に対応して,旧い電子出版物に対しメディア変換等おこなっているか,または旧式機器等を維持しているか | |
メディア,フォーマットの変換を行っている | 8館 |
旧式のハードウエア,ソフトウエアを維持している | 4館 |
○電子出版物の収集に関連して著作権問題が起こったか,見越しているか | |
あると思う | 15館 |
わからない | 18館 |
数館は出版物のモニタリングと著作権の適用の難しさ,公正な利用と容認できるコピー,容認できないコピーの間の境界の限定問題を指摘している。 | |
○CDNLにおいて電子出版物の法定納本問題の検討を継続することについて | |
賛成 | 35館 |
不賛成 | 2館 |
○電子出版物の法定納本をめぐる研究課題等 | |
●電子出版物へのアクセスに使用する機器,廃れた機器の維持の難しさ ●保存のための共通のメディアを見つけ出す必要性 ●定期的に磁気メディアの使い方を練習する必要性 ●磁気メディアの寿命と長期保存の難しさ ●材質 ●経営戦略から製作者が作らない場合のハードコピー作製の費用 ●技術面の標準化の欠如 ●利用者による無許可コピーを恐れるメーカーの反対とコピー防止装置を講ずる必要性 ●更新された版の返還を求めるメーカー側の方針 | |
但し,指摘したこれらの課題についてこの項の回答館37館中34館が未研究と回答している。 |
井手隆英(いでたかふさ)
Ref: Alexandria 2 (3) 51-63, 1990
国立国会図書館月報 (347) 7, 1990 ; (357) 5-6, 1990