カレントアウェアネス
No.140 1991.04.20
CA732
キューバの図書館事情
革命以前のキューバでは,図書館は一部の知識人のためのもので,一般の国民には縁遠い存在でしかなかった。文盲率が非常に高く,多くの子供たちが教育の機会を奪われていたこの国では,それも無理からぬことであった。
そのためカストロ首相を中心とする革命政府は,図書館を識字教育運動の最前線の一つとして位置付け,その活動を大いに奨励したのである。革命以前は,ほんのわずかしかなかった公共図書館も各州,各市町村に置かれ,さらに工場や病院,学校にも図書室が備えつけられた。おかげでキューバは,国中に「分不相応」なほど数多くの図書館をもつことになった。
とりわけ政府は青少年の識字教育に力を入れ,ハバナの6館を含めて,児童図書館を全国に配置した。各地の公共図書館はどこも児童書コーナーを設けているし,国の中央図書館であるホセ・マルティ国立図書館(Biblioteca Nacional Jose Marti)でさえ革命後,新たに児童書専門の部局をつくり児童書普及に努めている。こうした努力の結果,革命前は25%近くあった文盲はほとんど克服された。
また,キューバは他の第三世界の国々に比べると格段に発達した図書館ネットワークシステムをもっていて,全国の公共図書館は国立図書館を中心にしたネットワークで結ばれている。70年代後半には専門図書館レベルでも独自の情報ネットワークをつくり,博士論文などの非図書資料を含む科学技術情報を国中の研究者,専門家に提供している。
だが,革命後から続く経済的苦境がキューバの図書館にも暗い影を投げかけているのは確かだ。この国には第三世界特有の経済問題に加えて,アメリカによる経済封鎖という重い現実が常にのしかかっている。キューバの図書館では,アメリカから出版物を購入することは今でも困難で,図書館員が個人的なツテを頼って外国から図書館資料を入手することもしばしばあると言う。他の西欧諸国や共産圏諸国との交流はあるので,キューバの図書館人は決して世界の図書館界から孤立しているわけではないが,いまだにアメリカだけがかたくなな反キューバ主義政策を取り続けていることに彼らはいらだっている。
1994年のIFLA大会はハバナで開かれる予定だが,アメリカの図書館人がこれに参加できるかどうかはわからない。アメリカ図書館協会はアメリカ政府にキューバ大会参加を認めるよう強く働きかける方針で,キューバの図書館人ばかりでなく,アメリカ側からも両国の図書館交流の正常化を望む声が高まりつつある。
林かおり(はやしかおり)
Ref: Chepesiuk, Ron. Cuban libraries : 30 years after the revolution. American Libraries 21 (10) 994-997, 1990
ALA World Encyclopedia of Library and Information Services. 1980. p.167-168
Ibid. 2nd ed. 1986. p.231-235
Steele, Colin. Major Libraries of the World. 1978. p.61-63