CA632 – 第55回IFLAパリ大会”図書館、情報、経済”が中心テーマ / 堂前幸子

カレントアウェアネス
No.123 1989.11.20


CA632

第55回IFLAパリ大会
−“図書館,情報,経済”が中心テーマ

8月23日のルモンド紙が「情報コストと国の撤退」と題する長文の記事を載せたので紹介する。

大会で行われた数々の報告と討論では,図書館活動の経済的側面が基調となって,情報コスト,ないし情報価値が論点となる政策に関わる内容が主流となった。図書館の経費が算定しやすいのに対し,情報価値の方は計算がほとんど不可能に近いのだが,この落差が現実にもたらす結果はといえば,図書館予算のなかで情報に関連する予算が低く押さえられてしまうことにある。ことに,現在が国の緊縮財政と撤退の流れにあるだけにこの傾向はいっそう強まりつつある。このことは先進工業国の大部分にあっては財政困難による不安を生じさせ,また,富む国と貧しい国の間にある情報能力の格差をますます拡げるに至った。

情報が経済発展の要となる現代では,情報コストが次第に高くつくようになった。書籍をはじめとする出版物価格の上昇もあるが,何より数年前から市場に現われた新商品,光ディスク,CD-ROM,あらゆる領域にわたるデータベース等が,図書館や研究機関にとって新しい経済的要因になろうとしている。莫大な額に上る投資経費と職員の養成によって,図書館は当分の間,窒息状態に陥ってしまう。ここでもまた,富む国と貧しい国の距離が劇的なばかりに開くばかりである。現在,世界で提供されている3,000のデータベースは,56%がアメリカから提供され,27%がヨーロッパ,15.6%が日本,1.4%が残りの地域という分布を示す。

情報コストの上昇と,国家間の激しくなる科学技術競争との二重の挑戦に対して,支払い者としての国や共同体は各々,かなり異なった政策をとっている。いずれにしても,図書館の公共サービスおよび市民の平等な情報アクセスといった原則に疑問の余地がないとされている。しかし,知識と情報システムが大規模に進展するかたわら,不平等が世界的に拡大しつつある現実そのものが,この原則をユートピアにしてしまっている。情報の対価を誰に,どんな基準で支払うのか。利用者を従来の利用者,あるいは顧客とみなすのか。開発途上国が独立性を損わずにどのようにして大規模データベースにアクセスできるのか。これらに関する選択は,政治と社会の次元でなされる性質の選択であろう。

堂前幸子

Ref. Le Monde 1989.8.23