CA1918 – 「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み / 糸賀雅児

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カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1918



「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み


慶應義塾大学名誉教授:糸賀雅児(いとがまさる)


 「地方創生レファレンス大賞」とは、図書館のレファレンスサービスの認知度を高め、その普及を図るねらいから、文部科学省生涯学習政策局(以下、文科省生涯局と略)が発案し、図書館関係の組織や団体、有識者らに呼びかけて、3年前に創設した表彰制度である。

 

地方創生レファレンス大賞誕生の背景

 創設当時(2014年秋から15年春にかけて)の行政府は国を挙げて「地方創生」に取り組もうとしており、「『東京一極集中』の是正」「若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現」「地域の特性に即した地域課題の解決」(1)などを基本的視点にすえた各種の政策パッケージが動き出そうとしていた。なかでも「地域の特性に即した地域課題の解決」は、図書館界としても、2012年に改正された「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示第172号)に新たに盛り込まれた事項であり、この種のサービスの提供に関心が高まっていた時期でもあった。

 その一方で、図書館におけるレファレンスサービスは、長年、図書館関係者の間で司書の専門性が発揮される業務と認識され、各地の職員研修のテーマとしても毎年のように実施されているものの、一般社会では、それが図書館で提供されていることすらあまり知られていないのが実情であった。そこで、図書館界にとっては、地域の課題解決に結びつく資料やサービスの提供を通じて図書館が「地方創生」に貢献できる可能性を示すと同時に、広く社会にレファレンスサービスの意義や司書の専門性を訴える良い機会になるとも考えられた。

 文科省生涯局の発案に対し、さっそく2015年1月から、賛同する関係者が断続的に集まって準備を進めた。この年秋の第17回図書館総合展でフォーラムの一つとして公開審査形式で開催するという方向性について早くから合意が得られていた。ところが、レファレンスサービスを審査・表彰するという試みがこれまで無かったこともあり、対象館種や公募方法、審査基準、そして「地方創生」との関係性、等々をめぐって議論を重ねた。

 そもそもレファレンスサービスの実践で優劣を競うこと自体が図書館サービスになじむものなのか、といった意見も出された。さらには、呼びかけた文科省生涯局での担当者の異動もあって、結局、実行組織を立ち上げ、自主応募を原則とする開催要項が決まって募集が開始されたのは、2015年の8月下旬であった。

 

地方創生レファレンス大賞の概要と実行組織

 第1回地方創生レファレンス大賞募集要項(2015年9月告知)では、先に述べたような趣旨の他に、図書館を活用した「調べる学び」は子ども達だけでなく、“生涯にわたり広く国民に必要であることや、図書館が人々による主体的・自律的な課題解決を支援する機関であることを理解していただき、「調査文化」を我が国に根づかせるきっかけ”となるよう実施することが謳われている。

 そのこともあって、応募資格は、組織としての公立図書館に限定されることなく、学校図書館や大学図書館、さらには専門図書館など館種を問わないものとし、これらの図書館を利用する個人や団体(NPO法人、行政職員を含む)など、幅広い国民層が参加しやすく、また関心をもてるよう配慮した。

 また、主催団体は、とにもかくにも、この種の表彰制度を始めてみないと続けられるかどうかわからない、ということもあって「地方創生レファレンス大賞準備委員会」とした(その後、翌2016年にこの準備委員会は、「同実行委員会」に名称を改めている)。そして、この準備委員会には、後援団体として文科省生涯局社会教育課、協賛団体として公益財団法人図書館振興財団、協力組織として図書館総合展運営委員会および同事務局が加わり、他に株式会社図書館総合研究所と株式会社図書館流通センターからも委員が参加することになった。その結果、当初は総勢10人で準備委員会が構成され、その委員長には、事の成り行き上、糸賀が就くこととなった。

 審査については、この準備委員会とは別に、レファレンス業務に精通した研究者や有識者、そして文科省生涯局社会教育課長ともう一つの後援団体である公益社団法人日本図書館協会から役員が入ったうえで、昭和女子大学名誉教授の大串夏身氏を委員長とする審査委員会を設けることとした。応募事例について審査するのは、この審査委員会である。

 この表彰制度は、当初から優れたレファレンス事例を選定し、広く世間に報知することをねらいとしていた。そのため、準備委員会での検討段階から、最優秀と認められる事例には「文部科学大臣賞」を授与する方向で調整を進め、同省内での交付申請手続きを経て、この名称を冠した賞の授与が正式に認められた。他に、優れた実践例に対し、これを奨励する意味合いから、協賛団体の名称を付した賞や審査委員会による特別賞なども授与することとした。

 

過去3回の応募状況と受賞者

 公募による第1回は、募集期間が約1か月ときわめて短かったにもかかわらず、全国から34件の応募があった。館種を越えて公平な審査を行う観点から、応募の書式は統一したものを予め定めておいたが、やはり公立図書館からの応募が26件(利用者との合同応募2件を含む)と多かった。次いで利用者単独(個人および団体)が7件見られ、残りの1件は学校図書館職員からのものであった。また、その内容も、ご当地検定の問題作成のための問い合わせや地元の農作物の特性に関わる調査依頼など、いずれも地方創生に結びつきそうな多様なレファレンス事例が寄せられた。こうした事例を発掘できたことはこの制度の趣旨にかなったものであったし、とりわけ利用者からの応募が少なからずあったことは、この種の表彰制度を設けることの意義を裏づける結果ともなった。

 提出書類にもとづく一次審査により、この年は34件→9件→3件と絞り込んだ。そして、最終審査に残った3件については、図書館総合展フォーラムで審査員と一般聴衆を前にそれぞれ10分間のプレゼンテーションを行い、その後の質疑応答を含めた公開審査で各賞の受賞者を決定した。この公開フォーラムによる審査方式は、第1回から2017年の第3回まで変わっていない。

 その結果、栄えある文部科学大臣賞に選ばれたのは、開催順に次の3件である(2)

  • 第1回(2015年)
    中心市街地活性化に繋がる図書館活用~マチナカの人・歴史・再発見!~
    受賞者:鳥取市中心市街地活性化協議会タウンマネージャー成清仁士氏
    レファレンスサービスを受けた図書館:鳥取県立図書館
  • 第2回(2016年)
    中山間地域の産業を応援!~岡山県小田郡矢掛町干柿の里の活性化~
    受賞者:岡山県立図書館
  • 第3回(2017年)
    沖縄県系移民一世ルーツ調査(E1981参照)
    受賞者:沖縄県立図書館

 

 いずれも図書館ならではの地域資料が活用され、レファレンス質問を寄せた利用者個人の課題解決のみならず、地域全体の活性化につながるレファレンス事例が選定されたように思われる。図書館界では利用者を含めた自主応募にもとづく表彰制度が目新しかったこともあって、受賞した館の地元では、メディア報道も盛んになされたことは喜ばしい(3)

 ただし、これまでの受賞館が、県立図書館を中心とした比較的規模の大きい図書館であって、しかもビジネス支援サービスの一環としてのレファレンス相談が目立った点は、今後への課題と受け止めている。レファレンスサービスの提供は、必ずしも大規模館に限られるわけではないし、そこで扱われる主題やテーマもそして地方創生への広がりも、もっと多様であってよい。当初、規模の大きい図書館による高水準のレファレンス事例が相次いで受賞したこともあって、中小規模の図書館関係者は、その後尻込みしてしまったように見受けられる。

 そのため、第2回(2016年)の応募件数は8件、第3回(2017年)は17件と多くはなかった。これには、それまで蓄積していた好事例を、第1回の公募であらかた出し切ってしまったといった事情があったのかも知れない。それでも、公共図書館だけでなく、ひき続き図書館利用者はじめ、学校図書館、さらには大学附属の研究機関や書店などからも応募があったことは、徐々にこの賞の認知が広まっていることを示しているのではないだろうか。

 

課題と今後の方向性

 これまで3年にわたる公募と書類選考、公開審査の経験を踏まえて、今後、より多くの図書館関係者に関心をもっていただけるよう見直しを進めている。例えば、最終の公開審査のプレゼンテーションを行う3件だけでなく、他の優秀事例も数を限ることなく、最終審査の席上で表彰する予定である。

 また、もともと審査基準は、図書館の規模に関係なく、柔軟な対応ができるようになっているので、今後は中小規模の図書館による地域の暮らしに根ざしたレファレンス事例を積極的に評価していきたい。応募件数の伸び如何では、例えば、館種や蔵書数、職員数などによる部門別審査とするような方向性も、将来考えられる。

 そして、募集要項に謳っているように、図書館を通じた「調べる習慣」「調べる文化」の広範な普及に貢献できるよう、実行委員会として今後も継続してこの事業に取り組んでいきたいと考えている。

 

(1)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局. “まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」. 首相官邸. p. 3.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/panf_vision-sogo.pdf, (参照 2018-02-08).

(2)他の受賞者については、次のサイトを参照。
・第1回(2015年)
“地方創生レファレンス大賞 最終審査・授賞発表”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2015/1832, (参照 2018-02-08).
“「図書館総合展運営委員会フォーラム 地方創生レファレンス大賞」で「公益財団法人図書館振興財団賞」を受賞しました。”. 株式会社ワイズ・リーディング.
http://www.ysreading.co.jp/news/?p=377, (参照 2018-02-09).
公益財団法人図書館振興財団. Facebook. 2015-11-14.
https://www.facebook.com/1510966872491073/posts/1633634326890993, (参照 2018-02-09).
“第17回図書館総合展における地方創生レファレンス大賞「文部科学大臣賞」の受賞について”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/ct/other000004000/siryoteikyo-chihousousei-refa.pdf, (参照 2018-02-09).
・第2回(2016年)
“地方創生レファレンス大賞 最終審査・授賞発表”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2016/4760, (参照 2018-02-08).
“「港北昔ばなし紙芝居」が、地方創生レファレンス大賞で審査員会特別賞を受賞しました!”. 横浜市立図書館.
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/chiiki/kohoku/#161109kamishibai, (参照 2018-02-09).
・第3回(2017年)
“【発表】平成29年度地方創生レファレンス大賞”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/news/6695, (参照 2018-02-08).
“「平成29年度地方創生レファレンス大賞」文部科学大臣賞に選ばれました!”. 沖縄県立図書館.
http://www.library.pref.okinawa.jp/detail.jsp?id=40300&type=TopicsTopPage&funcid=2, (参照 2018-02-09).
@OkinawaPrefLib. Twitter. 2017-11-08.
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928086020628684800, (参照 2018-02-09).
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928094167414091778, (参照 2018-02-09).
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928120752791887873, (参照 2018-02-09).

(3)主な報道には、以下のようなものがあった。
・2016年岡山県立図書館
“県立図書館が文科大臣賞 地域活性化に協力 /岡山”. 毎日新聞. 2016-12-15.
http://mainichi.jp/articles/20161215/ddl/k33/040/532000c, (参照 2018-02-08).
・2016年横浜市港北図書館
“港北の昔話を紙芝居へ 港北図書館のプロジェクトが「地方創生レファレンス大賞」最終審査に残る”. 港北経済新聞. 2016-11-01.
https://kohoku.keizai.biz/headline/1869/, (参照 2018-02-08).
・2017年沖縄県立図書館
“受賞報道_沖縄01”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/20171109「琉球新報」(沖縄).pdf, (参照 2018-02-08).
・2017年塩尻市立図書館
“受賞報道_塩尻02”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/20171114「中日新聞長野県版」(塩尻).pdf, (参照 2018-02-08).

 

[受理:2018-02-14]


補記:
本稿脱稿後、『図書館雑誌』2018年2月号に、第3回地方創生レファレンス大賞及びその受賞館の取り組みに関する記事が掲載された。記事によると、文部科学大臣賞の受賞館である沖縄県立図書館の取り組みは同誌3月号で紹介される予定である。
 
文部科学省. 霞が関だより 第172回. 図書館雑誌. 2018, 112(2), p. 101-106.
 


糸賀雅児. 「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1918, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1918
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062622

Itoga Masaru
Brief History of the Reference Service Award for Regional Revitalization