E1981 – 沖縄県立図書館のハワイでの沖縄系移民1世ルーツ調査支援

カレントアウェアネス-E

No.339 2017.12.21

 

 E1981

沖縄県立図書館のハワイでの沖縄系移民1世ルーツ調査支援

 

●概要

 沖縄県立図書館(以後,当館)は,2017年9月2日から3日にかけて米国ハワイ州オアフ島で開催された第35回オキナワフェスティバル(以後,フェスティバル)において,ハワイ沖縄系図研究会(Okinawan Genealogical Society of Hawaii:OGSH)と連携し,移民1世ルーツ調査(以後,ルーツ調査)支援を実施した。ハワイの沖縄県系人など120人から2日間で170件の調査依頼を受けた。本稿では,実施に至るまでの経緯と現地の様子を紹介する。

●経緯

 当館は,2016年10月末に那覇市で開催された「第6回世界のウチナーンチュ大会」(主催:沖縄県)(以後,大会)において,初めて,ルーツ調査ブースを設置し,海外県系人向けにレファレンスサービスを実施した。大会は,沖縄の歴史・文化などに触れることや,母県とのネットワークの強化などを目的にしている。主に海外に居住する県系人(主に3世・4世)が参加し,当ブースは,4日間で273件の調査依頼を受けた。その際,OGSHのメンバーもブースに訪問したことが,交流のきっかけとなった。

 当館は,以前から海外にある沖縄移民関係資料の収集を進めており,海外県人会等との直接的なネットワーク構築を模索しているところであった。一方,OGSHはハワイ沖縄連合会(合計4万人を超える会員を持つ50のクラブからなるハワイの県系人の団体)の下部組織として,15年以上にわたりハワイで県系人向けにルーツ調査を行っている団体であり,沖縄側の協力者を探しているところであった。大会後,OGSHからの調査依頼などのため,電子メールによる日常的な情報交換を行ってきた。2017年1月には,ビデオ会議を数回実施し,互いの組織や関係者の紹介,ルーツ調査,資料収集などの話し合いを行い,連携をさらに深めていった。

 ビデオ会議の中で,フェスティバルにおけるルーツ調査の共同開催と,同時期にハワイで行われる海外の県系人によるカンファレンスへの参加の誘いを受けた。

●当日の様子

 フェスティバルは,多民族社会であるハワイにおいても最大の民族系イベントで,例年約5万人が参加する。ワイキキビーチからほど近いカピオラニ公園が会場で,沖縄そば,サーターアンダギーなどの沖縄の郷土料理を販売する飲食ブースをはじめ,エイサーや沖縄空手の演舞,ウチナーグチ(沖縄諸語),三線のほか,習字,盆栽など日本文化を体験するワークショップ,そして最後に盆踊りまで行われていた。

 当館から,3人の職員がハワイに出張した。調査ブースでは,当館職員がそれぞれ個別調査を担当し,受付及び通訳などをOGSHが担当した。OGSHなどによる事前告知が功を奏し,フェスティバル開催中,常時10人以上がブースの前で調査を待っているほど,大盛況であった。その場で回答できなかったものは沖縄へ持ち帰り,後日電子メールで回答を行った。

 調査では,外務省外交史料館が所蔵している海外旅券下付表(パスポートの発給記録)を編集した,『沖縄県史』収録の移民名簿を用いて,県系人の出身地,生年月日などの情報を提供したり,移住先のハワイで出版された資料などからハワイでの足跡をたどったりした。

 質問者の年齢層は,20代から80代と幅広く,親子で訪問する人もいた。2016年の大会のときよりも若年層が多く,4世以降と思われる世代でも自分のルーツに深い関心を持っていることがわかった。この調査で初めて1世のルーツを知り感涙する人や沖縄を訪問する動機付けになったケースもあった。質問者からは「移民1世よりさらに遡った先祖について知りたい」「沖縄にいる親戚を訪問したい」「先祖のお墓参りがしたい」という声も聞かれた。

 当館では2016年の大会以降,ルーツ調査依頼を電子メールでも受け付けているが,ハワイでの取り組みにより,OGSHとの関係が強化され,レファレンス件数も増加している。また,ハワイで出版された貴重な沖縄移民関係資料を収集することができた。さらに,この取り組みが2017年の地方創生レファレンス大賞文部科学大臣賞を受賞した。多くのマスメディアで紹介され,当館のプレゼンスの強化とレファレンスサービスの周知に繋がった。

●今後の展望

 ブラジルは県系人が最も多く住んでいる国であり,ペルー・アルゼンチンは日系人の70%以上が県系人と言われている。米国本土やカナダに住む県系人も多い。現地でルーツ調査を実施し,移民資料の収集と県人会とのネットワークを広げていくことを検討している。

 また,海外の県系人は,1世の情報だけでなく,親族の訪問や墓参などを希望している。幸いにも,沖縄の農村部はまだ地域のネットワークが強固である。個人情報に留意しながらも,地域の公民館などと連携して,交流がなくなってしまった親戚との間を仲介することも検討していきたい。観光の視点からみても,ルーツ調査によって沖縄への関心が高まり,訪問する県系人の増加及び滞在期間の長期化が期待できる。

 今後も,ルーツ調査により歴史を超えた新しいネットワークの創造に貢献していきたい。

沖縄県立図書館・原裕昭

Ref:
http://www.okinawanfestival.com/2013/festival/booths.htm
http://uchinanchu.net/hawaii/clubs/OkinawanGenealogicalSocietyOfHawaii.html
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/137076
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-568273.html
http://www.library.pref.okinawa.jp/detail.jsp?id=40059&menuid=323&funcid=1