CA1731 – モンゴル国立図書館の現状と将来計画 / 林 明日香

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カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1731

 

 

モンゴル国立図書館の現状と将来計画

 

1. はじめに

 モンゴル国立図書館は、クリーム色の壁と白い柱が美しい建物であるが、1951年に建てられて以来、数回補修したのみで外見からしても少々老朽化している感が否めない。そのため現在新館建設が計画されており、それに伴って2010年に「モンゴル国立図書館戦略2010-2016」(1)(以下「戦略2010-2016」)が発表された。本稿では、「戦略2010-2016」を基にモンゴル国立図書館の現状と将来計画について紹介したい。

 

2. モンゴル国立図書館の現状

 モンゴルで人民政府が成立した1921年に、モンゴル典籍委員会の付属図書館として設置された図書館がモンゴル国立図書館の起源である。その後国立の公共図書館となり、数回の改称や、1990年からのモンゴル国の民主化への転換に伴う混乱も乗り越え、2004年に現在の「国立図書館(Үндэсний номын сан)」という名称になった。2005年には、「モンゴル国立図書館規則」(2)が制定され、改めて国立図書館を国の中央図書館と定め、組織の改編、コレクションの拡充、サービスの拡大などを含めた図書館の役割が規定された。

 1951年に現在の建物へ移転した際に50万点であった国立図書館の蔵書は、2010年には300万点に増加しており書庫スペースが不足している。また書庫内には空調が無く、適切な温湿度を保つのが難しい状況である(3)

 組織は図書館学部門、書庫管理部門、収集整理部門、閲覧サービス部門、総務部門の5つの部(4)に分かれている。2009年の職員数は、館長1名、専門スタッフ55名、アシスタントスタッフ20名の計76名で、利用者は年間6万人である。

 資料の収集は主に購入、寄贈、国際交換によって行っている。2010年の資料購入の予算は6千万トゥグルグ(約390万円)である。

 モンゴル国立図書館の電子化の状況については、現在30万冊分の目録が電子化されており、“Элeктрон каталог”(電子目録)(5)としてウェブ上で公開されている。また、所蔵する貴重書の電子化にも取り組んでいる。インド政府からの支援によって行われていたモンゴル大蔵経の電子化プロジェクトは終了し、1999年から始まった“Asian Classics Input Project”の支援によるチベット語の仏典などのデジタル化は継続中である(6)。図書館の設備不足などを理由に、どちらも一般公開はされていないものの、一部の目録は国立図書館のウェブサイトから見ることができる。

 

3. モンゴル国立図書館の将来計画

 2008年に当時のエンフバヤル(Намбарын Энхбаяр)大統領は、国立図書館の新館建設を決定した。これはクウェートの無償支援を受けて、市内の別の場所に新しい建物を建設しそこに国立図書館を移転するものである(7)

 「戦略2010-2016」はこの新館建設をひとつの節目として、移転までを第一フェーズ(移行期)、移転後1-2年を第二フェーズ(試行期)とさだめ、第一フェーズの間に新たなサービスモデルの導入や人材育成、設備や技術の向上などの変革の準備を行い、第二フェーズでそれらを実施に移すとしている。

 モンゴル国政府の将来目標に、情報通信技術によって知識ベースの社会を構築するというものがあり、「戦略2010-2016」の中では図書館のビジョンについて「モンゴル国立図書館は、図書館資料とサービスにより、モンゴルの知識ベースの社会を発展させる点で、主要な貢献者でありリーダーである」(8)と述べている。

 「戦略2010-2016」では、「コンテンツとアクセス」「利用者とパートナーシップ」「電子図書館」「人材」の4つの優先的な戦略について説明している。

 「コンテンツとアクセス」戦略は、主に資料収集、保存、提供について述べている。資料の収集に関しては、これまで収集してきたモンゴルの出版物や貴重書などの他に、電子資料を収集するとしている。またこれまで、政府決定などでは国立図書館への法定納本の言及がありつつも実際には機能していなかったが、教育・文化・科学省やモンゴル図書館協会などと協力しながら無償納本による資料収集実現に向けた活動を行っていく。収集した資料は、来館による利用のほかオンラインでも利用者に提供すると定めている。

 「利用者とパートナーシップ」戦略では、利用者のニーズを学び図書館サービスの質を高めることや、政府機関や国際機関などのスポンサー、モンゴル図書館協会や国内外の図書館などのパートナーとの合意と協力を通して「利用者とパートナーシップ」戦略の目標を実現していくとしている。

 「電子図書館」戦略では、電子図書館の機能として、科学や研究に関するデータベースやオンラインジャーナルの提供、モンゴル語のデジタル資料の収集、モンゴルの電子出版物の長期保存、資料のデジタル化と提供の4つをあげている。ただし、その前に、法制度の整備、技術と設備の充実、安全な情報環境の構築、人材育成が必要としている。

 「人材」戦略では、組織改編と人材育成について述べている。2005年の政府決定で定められていたが、実行されていない組織改編と電子図書館を作るための改編を行い、部の数を5から8に増やし、職員数も76名から178名へと大幅に増員する。また、旧ソ連時代に訓練を受けた職員の再訓練、外部からの情報通信技術や外国語の能力を持つ人材の登用などを計画している。

 

4. 最後に

 2008年6月に新館建設予定地に礎石を置く式典を行って以来、今のところ新館建設の具体的な動きはなく、建築家や設計図も決まっていない。また、モンゴルの経済状況の悪化により、図書館の資料購入費が削減されている状況である。加えて、新館の建設を決定したエンフバヤル大統領が2009年6月の総選挙で退任し、モンゴル国立図書館館長も2010年に入ってからアキム(Готовын Аким)氏からチラージャブ(Хайдавын Чилаажав)氏へ変わった。

 このような様々な課題があるが、「戦略2010-2016」の中では、この戦略の結果として「国民はどんな遠い県、村からでもオンラインで国立図書館のサービスを受けられる」(9)ような社会が描かれている。遊牧民が馬の背に揺られながら、あるいは草原の中のゲルで、モンゴル国立図書館の資料を読むことができる、そんな未来がぜひ実現してほしいと思う。

総務部人事課:林 明日香(はやし あすか)

 

(1) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. 43p.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf, (accessed 2010-10-25).
“National Library of Mongolia Strategy 2010-2016”. National Library of Mongolia. 35p.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 eng.pdf, (accessed 2010-10-25).

(2) Монгол улсын үндэсний номын сангийн дүрэм, бүтэц 2005.02.08 1 31 БСШУ-ны сайдын тушаалын 1, 2 дугаар хавсралт

(3) Ж., Солонго. “Халцарсан хана, хагархай гэрэл Оюуны их уурхайг “ХАМГААЛЖ” байна”. Монгол Ньюс. 2010-06-02.
http://www.mongolnews.mn/p/5687, (accessed 2010-10-25).

(4) Мэдээлэл арга зүй, эрдэм шинжилгээ; Уншлага үйлчилгээ; Фонд хадгаламж; Ном бүрдүүлэх, боловсруулах, солилцох; Захиргаа аж ахуй

(5) “Элeктрон каталог”. National Library of Mongolia.
http://www.nationallibrary.mn/catalog.php

(6) “ACIP Signs New Contract with National Library of Mongolia”. Asian Classics Input Project.
http://www.asianclassics.org/node/46, (accessed 2010-10-25).

(7) “Ерөнхийлөгч Н.Энхбаяр “Монголын Улсын Үндэсний номын сан”-гийн шав тавих ёслолд оролцлоо”. GoGo Мэдээ. 2008-06-12.
http://news.gogo.mn/r/30045, (accessed 2010-10-25).

(8) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. p. 17.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf, (accessed 2010-10-25).

(9) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. p. 15.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf, (accessed 2010-10-25).

 


林明日香. モンゴル国立図書館の現状と将来計画. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1731, p. 7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1731