CA1704 – 中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして― / 篠田麻美

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1704

小特集 諸外国の読書推進活動

 

中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして―

 

 中国出版科学研究所が実施している国民読書調査によると、2008年の中国の成人の書籍読書率は49.3%で、1人当たりの1年間の読書冊数は平均4.72冊である。都市と農村では読書量に顕著な差があり、例えば雑誌の年間平均読書冊数は、都市住民の11.8冊に対し、農村住民は5.5冊である(1)。中国では、著しい経済発展を続ける都市の住民と、開発から取り残された農村の農民や出稼ぎ農民との経済格差が大きな問題となっており、読書推進活動は都市の図書館にとどまらず、農村や出版業界も巻き込んで幅広く進められている。中国の読書推進活動に関する政府の方針、およびその方針を受けて公共図書館や各地方で行われている取り組みについて紹介したい。

 

1. 政府の方針

 1997年1月に中国共産党中央宣伝部、文化部、新聞出版署など9部門が共同で発布した「全国の知識プロジェクトの実施に関する通知(关于在全国组织实施“知识工程”的通知)」(2)により、図書館の事業を通じて「国民の読書の唱導と読書社会の建設(倡导全民读书、建设阅读社会)」を実現するためのプロジェクトが開始された。2004年には4月23日の「世界図書・著作権の日」にあわせて、4月を「国民読書月間(全民读书月)」とし、その活動を中国図書館学会が担当することとした(3)

 2006年には中国共産党中央宣伝部、新聞出版総署など11部門が共同で、「国民読書活動の推進に関する提議書(关于开展全民阅读活动的倡议书)」を発表し、「読書に親しみ、よい本を読もう(爱读书、读好书)」をスローガンに、世界図書・著作権の日に因んだ読書活動を推進している(4)。さらに2009年には中央宣伝部と新聞出版総署が「国民読書活動のより一層の推進に関する通知(关于进一步推动全民阅读活动的通知)」で、各地域で活動の具体的な計画を策定するよう呼びかけている(5)

 

2. 図書館界の取り組み

2-1. 中国図書館学会の取り組み

 図書館の読書活動で中心的な役割を果たすのは、全国規模の職能・学術団体である中国図書館学会である。2005年からは国民読書活動に評価の仕組みを導入し、毎年、活動についての通知を公布して当該年度の活動の要点を示すと同時に、前年度の活動で成果のあった図書館や地方の図書館学会を表彰し、「国民読書基地(全民阅读基地)」の称号を与えている(6)

 例えば、「2009年の国民読書活動の展開に関する通知(关于开展2009年全民阅读活动的通知)」では、「読書で一緒に成長する(让我们在阅读中一起成长)」をテーマに、2009年の1年間における児童の読書と科学の普及に重点を置いた活動の要点が示されている(7)。児童への読書推進活動については、読書大会などのイベントや「聞一多(8)杯」と称した創作漫画、書道・絵画のコンテストのほか、児童の読書調査や児童サービスのための研究が計画されている。また、貧困地区の公共図書館へ本を送ることも活動に含まれている(9)(10)。科学普及のための読書推進活動については、中国図書館学会と中央広播電視大学が共同で主催する「09湿地中国行」という活動が展開された。活動の総括の際に使われた「知行合一」という言葉が示すように、単なる読書にとどまらず実践を行うことに特徴がある。具体的には、環境保護に関する図書の寄贈などに加えて、関連講座の開催、サマーキャンプ、読書感想文などの文章の募集、湿地を訪れての詩歌の創作、書画や写真のコンテストなどのさまざまな活動を行うというものである(11)(12)

 また、その他の活動として、2006年には、中国図書館学会は図書館と読書文化、図書館が国民読書活動で果たす役割などについて研究を行う「第1回科学普及と読書指導委員会(第一届科普与阅览指导委员会)」を開催した。出版業界からも専門家が参加し、「読書文化研究委員会」などの6つの専門委員会が設けられ、それぞれ特色ある活動を行っている(13)

 

2-2. 情報格差是正への取り組み

 図書館の全国読書推進活動においては、開発の遅れた地域の支援も重要な課題である。文化部と財政部は「農村に本を送るプロジェクト(送书下乡工程)」を行い、2003年から2008年までの間に、農村地域の11,000の重点開発対象地域にある、県の図書館および郷鎮(14)の図書館(室)に合計1,000万冊の資料を送った。毎年2,000万元(約2億7,000万円)の予算が投入され、各地で図書館の貸出冊数の向上などの顕著な効果をあげている(15)

 前述の中国出版科学研究所の読書調査によると、2005年に読んだ本について、図書館などから借りたという割合は14.8%にとどまっている(16)。中国では図書館の利用カードの作成や館外への資料の貸出に料金が必要な場合が多く、利用に一定のハードルがあることがその要因の一つといえる。そこで、2006年の杭州、深圳の公共図書館を始めとして、中国各地で一般利用者のカード作成手数料の撤廃といった公共図書館の無料開放の取り組みが広がりを見せている。また、都市部では出稼ぎ農民である「農民工」に対して、貸出カード作成手数料の免除、就職や社会保障などの情報を提供するサービスを行う図書館も出始めている(E401参照)。こういった取り組みも情報格差の是正に貢献している。

 

3. 新聞出版総署の取り組み

 図書館以外に国民読書活動で重要な役割を果たす機関に、新聞出版総署があげられる。新聞出版総署は国務院の直属組織の一つで、主に出版に関する事業の監督・管理を行っており、出版事業の振興という側面から各地の読書活動を支援している。毎年6月1日の「国際児童の日」にあわせて、青少年向けの推薦図書のリストを公開(17)するほか、2003年からは農村地域の支援のための「農家書屋(农家书屋)」を設置する事業を行っている。

「農家書屋」とは、農民の文化的需要を満たすために農村に設置された、実用書や新聞雑誌、音楽映像資料等が閲覧できる施設である。図書1,500冊以上、雑誌新聞30タイトル以上、電子音楽映像資料100タイトル以上が配置される(18)。計画では、2010年までに約20万の農家書屋を建設し、2015年までにはすべての農村に設置することを目標にしている(19)。なお、農家書屋に配置すべき資料の推薦リスト(2009年分は、図書3,600タイトルなど)も提示され、所蔵資料の7割以上はこのリストから選ぶ必要がある。同時に所蔵資料のうち何冊が推薦リストに該当するのかを記入する調査票(20)の提出も求められ、所蔵資料の質についても適切な「管理」が目指されている。

 

4. 地方の取り組み

 読書活動に熱心に取り組んでいる地域には、深圳や上海、南京などが挙げられる。深圳では2000年から独自に11月を読書月間に設定しており、2009年にはこの10年の活動を回顧して、過去の読書月間の活動を撮影した作品の募集などさまざまなイベントが行われた。また、世界図書・著作権の日にあわせて、市街地に図書館サービスを行う機器を40台導入したことも注目される(21)。この図書館サービス機は6㎡に400冊の本を収容でき、24時間セルフサービスで図書の貸出しができるものである。第1号機が導入された2008年4月23日から2009年10月末までの統計によると、利用者カード約1万枚が発行され、延べ50万人余りが利用し、貸出冊数は延べ100万冊以上に上っており、好評を博している(22)。より利用しやすい図書館の環境を整えることで、読書活動の推進に貢献しているといえよう。

関西館アジア情報課:篠田麻美(しのだ あさみ)

 

(1) “中国出版科研所发布”第六次全民阅读调查”成果”. 中国出版网.
http://cips.chinapublish.com.cn/yw/200904/t20090422_47512.html, (参照2010-02-15).

(2) “关于在全国组织实施”知识工程”的通知”. 中国科普网.
http://www.kepu.gov.cn/kp_fagui_show.asp?ArticleID=74995, (参照2010-02-15).

(3) 四月是全民读书月. 中华读书报. 2004-04-21, 13版.
http://www.gmw.cn/01ds/2004-04/21/content_15781.htm, (参照2010-02-15).

(4) 关于开展全民阅读活动的倡议书. 中国新闻出版报. 2006-04-18, 1版. 入手先, 中国重要报纸全文数据库,
http://cnki.toho-shoten.co.jp/kns50/Navigator.aspx?ID=CCND, (参照2010-02-15).

(5) “关于进一步推动全民阅读活动的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/508/200904/463374.html, (参照2010-02-15).

(6) “2008年全民阅读获奖名单”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-11/EnableSite_ReadNews1124239571257264000.html, (参照2010-02-15).

(7) “关于开展2009年全民阅读活动的通知”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-03/EnableSite_ReadNews156829601238428800.html, (参照2010-02-15).

(8) 聞一多(1899-1949) 中華民国時期の詩人。

(9) “2009全国少年儿童阅读年启动”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-04/EnableSite_ReadNews1524430251240416000.html, (参照2010-02-15).

(10) 全国少年儿童阅读年官方网站.
http://www.nycr.org.cn/, (参照2010-02-15).

(11) “2009年全民阅读活动”09湿地中国行”读书活动启动”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-04/EnableSite_ReadNews156830211239897600.html, (参照2010-02-15).

(12) “09湿地中国行”. 读书活动专题网站.
http://shidi.crtvul.cn/, (参照2010-02-15).

(13) “中国图书馆学会第一届科普与阅读指导委员会成立”. 中国图书馆年鉴 2007. 中国图书馆学会ほか編. 北京, 国家图书馆出版社, 2009, p. 34-38.

(14) 白雪华. “”送书下乡”工程实施情况”. 中国图书馆年鉴 2007. 中国图书馆学会ほか編. 北京, 国家图书馆出版社, 2009, p. 54-57.

(15) 中国の行政単位は、省級(直轄市、省、自治区など)、地級(地級市、自治州など)、県級(市轄区、県級市、県など)、郷級(鎮、郷、街道など)の4つのレベルに分かれている。鎮、郷は郷級の行政単位にあたる。

(16) 中国出版科学研究所《全国国民阅读与购买倾向抽样调查》课题组編. 全国国民阅读与购买倾向抽样调查报告(2006). 北京, 中国出版科学研究所, 2006, p. 58-59.

(17) “关于2009年向全国青少年推荐百种优秀图书并开展相关读书活动的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1385/200909/466092.html, (参照2010-02-15).

(18) “农家书屋工程建设管理暂行办法”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200808/459325.html, (参照2010-02-15).

(19) “关于印发《”农家书屋”工程实施意见》的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200703/450516.html, (参照2010-02-15).

(20)     “关于印发《2009年农家书屋重点出版物推荐目录》的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200910/668039.html, (参照2010-02-15).

(21)     深圳:打造“书香之城”. 光明日报. 2009-04-23, 5版.
http://www.gmw.cn/01gmrb/2009-04/23/content_912630.htm, (参照2010-02-15).

(22)     图书馆领域的一场革命―深圳建设街区24小时自助图书馆纪事. 光明日报. 2009-12-11, 2版.
http://www.gmw.cn/01gmrb/2009-12/11/content_1019611.htm, (参照2010-02-15).

 

Ref:

张鹰. “论公共图书馆与全民阅读”. 中国图书馆学会年会论文集(2007年卷). 中国图书馆学会編. 北京图书馆出版社, 2007, p. 286-296.

洪文梅. 公共图书馆在全民阅读活动中的作用与对策探讨. 图书馆理论与实践. 2009(7), p. 85-88. 入手先, 中国期刊全文数据库,
http://cnki.toho-shoten.co.jp/kns50/Navigator.aspx?ID=CJFD, (参照2010-02-15).

 


篠田麻美. 小特集, 諸外国の読書推進活動: 中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1704, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1704