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カレントアウェアネス
No.291 2007年3月20日
CA1622
図書館サイトの現状
−再点検の必要性と危機感の欠如−
図書館サイトの普及
図書館のウェブサイトの普及が進んでいる。上田修一の調査によれば(1),2005年には全国704大学のうち89.8%にあたる632大学で図書館サイトが公開されている。また,日本図書館協会の各種調査によれば,2006年度に公共図書館を設置していた1,369自治体(2)のうち72.1%にあたる988自治体(3)で図書館サイトが公開されていると推計できる。
図書館サイトの普及とともに,図書館サイトのあり方にも関心が集まっている。2004年には長谷川豊祐らが「大学図書館トップページのガイドライン」を発表し(4),2005年には松山龍彦がこのガイドラインを踏まえたサイト作成のひな型である MoogaOne(むーがわん)を公開している(5)。こうした関心は決して一部に留まるものではない。2005年の専門図書館協議会全国研究集会で「“使える”図書館ホームページを考える」を掲げた分科会が開催されたことや(6),2006年には岡本真(7)や林賢紀(8)が図書館のウェブ発信に関し様々な図書館関係団体で発言していることが,その一つの証明となっている。
一連の動向は,図書館サービスの一角を担うものとして,図書館サイトがあるという意識の浸透を示すものだろう。だが図書館サイトの「全公開時代」を迎えた現在においては,利用者を巻き込んだコンテンツの生成と発信の意義と効果を強調する「Web2.0」のような新たな課題に対応するのと同時に,10年以上に渡る歴史を振り返り(9),図書館サイトが置かれている状況を見つめ,図書館サイトのあり方を再点検することが必要ではないか。
抜本的な見直しの提案
早くから図書館サイトの分析や評価が行われてきた欧米の図書館では,図書館サイトの現状に対する厳しい評価が示されている。
たとえば,2005年に発表されたピザンスキ(Jan Pisanski)らの研究(10)は,ヨーロッパ9か国の国立図書館サイトの比較分析に基づいて,「各国の国立図書館サイトは及第点にあるが,依然として理想には程遠い」ことを指摘している。この研究は図書館サイトの発信内容と発信方法について,各12項目,計24項目の評価指標を定めて行われた厳密なものであるだけに,現状に満足すべきではないという指摘は,説得力を持っている。
また,2006年に発表されたデトロール(Brian Detlor)らの研究は,既存の図書館サイトを肯定的に評価しつつも,最終的にその脆弱性を指摘し,「確固たる(robust)」図書館サイトの構築を訴えている(11)。この提言は,北米研究図書館協会(ARL)の会員館のうち107館を対象に33項目からなるチェックリストを用いた調査を行った結果に基づくだけに,極めて重い意味を持っている。
背景にある危機感
このような挑戦的な問題提起を含む研究がなされる背景には,Googleに象徴される検索エンジンの台頭がある。実際,検索エンジンと対等に伍していく「確固たる」図書館サイトを実現する条件として,デトロールらは極めて難易度の高い課題を掲げている。
- (1).利用者ニーズにあわせたサービスの実現
- (2).検索を中心としたインターフェースへの移行
- (3).利用者へのカスタマイズ機能の提供
- (4).インターフェース改善に重点化した資源配分
- (5).情報アクセスに留まらない情報活用の支援
ここにあるのは,ARLの加盟館ですら,この5つをなしえないことには検索エンジンの前に敗れ去るのではという危機感であろう。
図書館と図書館サイトを取り巻く現状に対する危機感は,マーケティングや広報の手段としての研究図書館サイトの可能性を説いた2005年のウェルチ(Jeanie Welch)の研究にも現れている(12)。ウェルチの提起は,寄付による資金調達や図書館友の会制度への参加といった図書館支援の獲得を目的としており,厳しい財政状況の中で研究図書館による自館サイトの有効活用が求められている現状をよく伝えている。
日本における再点検の視角とその課題
もちろん日本の図書館サイトにも,同様の問題意識や提起がないわけではない。前述の MoogaOne を「useful(便利)なウェブページは多いのに,usable(使いやすい)ではない」(13)という問題意識に基づいて始めた松山や「FAIR UP」(Findability, Aggregation, Integration, Resource, Usability, Presentation)(14)をキーワードに大学図書館サイトの課題を指摘した岡本らの取り組みは,既存の図書館サイトの再点検を迫るものだろう。
このうち「FAIR UP」をキーワードにした岡本による図書館サイト分析では,京都の主だった大学図書館のサイトを対象に具体的な評価が行われている。たとえばサイト上での情報の見つけやすさ/見つけられやすさを意味する Findability という観点から,京都造形芸術大学芸術文化情報センターに高い評価が与えられている。多くの図書館サイトでは,OPACはリンクをたどってアクセスするように配置されているのに対し,京都造形芸術大学芸術文化情報センターのサイトでは,サイト内のどのページを開いても常にページの左側にOPACの検索キーワード入力欄と検索ボタンが表示されているためである。OPACがサイト内のどこにでも常に表示されているということは,OPACが見つけやすく見つけられやすいということであり,当然いつでもOPACを検索できるということを意味している。見つけやすさ/見つけられやすさを考慮したこのような図書館サイト構築の背景には,図書館サイトにおいてOPACはきわめて重要であるという京都造形芸術大学芸術文化情報センターの認識を表すものだろう。
逆に龍谷大学学術情報センターは,OPACにデータが含まれていない和漢古典籍目録とOPACとの間にリンクがないことを厳しく批判されている。重要なコンテンツが別個に存在して統合されていないこと,せめてリンクによって相互の存在が明示されていないことは,情報の見つけやすさ/見つけられやすさの重要性が龍谷大学学術情報センターのサイトでは考慮されていないことを示すものだからである。
このように,なんらかの尺度や指針に準じて図書館サイトを一つずつ具体的に評価していく取り組みは今後欠かせないものとなってくるだろう。だが,そのような取り組みは,デトロールにみられるような根底からの転換を促す問題提起には至っていないこともまた事実である。彼我のこの差は,日本の図書館サイトの先進性を示すものでは当然なく,現状認識の甘さから来る危機感の欠如に由来するものだろう。無論,危機感を煽る必要はない。だが,それでは冷徹な現状認識がなされていると自信を持っていえるだろうか。図書館と図書館サイトを取り巻く現状に対する危機感が欠けていること,そして危機の存在がデトロールらのように説得力ある形で提起されていないことこそが真の危機であるかもしれない。
ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG):岡本 真(おかもと まこと)
(1) 上田修一. 大学図書館OPACの動向. (オンライン), 入手先< http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/libwww/libwwwstat.html >, (参照 2007-01-23).
(2) 日本図書館協会. 日本の図書館統計. (オンライン), 入手先< http://www.jla.or.jp/statistics/ > ,(参照 2007-01-23).
(3) 日本図書館協会. 公共図書館Webサイトのサービス. (オンライン), 入手先 < http://www.jla.or.jp/link/public2.html > ,(参照 2007-01-23).
(4) 長谷川豊祐ほか. 大学図書館トップページのガイドライン(第1.2版). 上田修一ホームページ(オンライン), 入手先 < http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/univlibguide/toppageguideline.html > , (参照 2007-01-23).
佐藤千春ほか. 大学図書館トップページのガイドライン.大学図書館研究. 72, 2004, 1-9.
(5) 松山龍彦. MoogaOne. (オンライン), 入手先 < http://mook.mook.to/MoogaOne/ > , (参照 2007-01-23).
(6) 嵯峨園子. 「利用者中心」のホームページ−ユーザビリティとアクセシビリティの基礎知識. 専門図書館. 213, 2005,35-40.,
松山龍彦. MoogaOne−作り手には作りやすく,使い手には使いやすく. 専門図書館. 213, 2005, 41-50.
(7) 林賢紀ほか. RSS(RDF Site Summary)を活用した新たな図書館サービスの展開−OPAC2.0へ向けて. 情報管理.49-1, 2006, 11-23.
(8) 岡本真. Web2.0時代の図書館−Blog, RSS, SNS, CGM. 情報の科学と技術. 56-11, 2006, 502-508.
(9) 上田修一. ウェブの10年を図書館はどう過ごしてきたか.図書館雑誌. 99(2), 2005, 79-81.
(10) Pisanski, Jan et al. National Library web sites in Europe:an analysis. Program: electronic library and information systems, 39(3), 2005, 213-226.
(11) Deltor, Brian et al. Academic Library Websites: Current Practice and Future Directions. The Journalof Academic Libraianship. 32(3), 251-258.
(12) Welch, Jeanie M. The Electronic Welcome Mat: The Academic Library Web Site as a Marketing and Public Relations Tool. The Journal of Academic Librarinaship.31(3), 2005, 225-228.
(13) 松山龍彦. はじめにお読みください. (オンライン), 入手先 < http://mook.mook.to/MoogaOne/Download/Standard/ReadMeFirst.txt > , (参照 2007-01-23).
(14) 岡本真. 図書館・図書館員のためのWebの情報発信. (オンライン), 入手先 < http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/doc/daitoken_kyoto(20060923).ppt >, (参照 2007-01-23).
岡本真. 図書館サイトの現状−再点検の必要性と危機感の欠如−. カレントアウェアネス. (291), 2007, 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1622