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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20
CA1509
米国教育省によるERIC改革案
米国教育省は,教育資源情報センター(Educational Resources Information Center:ERIC)の効率化・省力化を図るための改革案を発表した(E077参照)。
ERICは,1966年に設立され,米国の教育関係分野の発展のため,教育に関する研究や情報の提供を行ってきた。米国教育省の国立教育図書館,クリアリングハウス,サポート機関(ERIC Document Reproduction Service(EDRS)等)から成り,特に16分野に分かれたクリアリングハウスは,教育関係についての最新情報の発信,ERICデータベース用の資料収集,抄録作成,書誌作成,質問回答を行う。
なかでもよく知られているのが,ERICデータベースの提供である。雑誌,研究報告,会議録,図書などに掲載された記事100万以上のデータを含み,教育関係の文献データベースでは世界最大である。規模のみならずERICシソーラスによる書誌の質の高さと一貫性の面からも評価は高く,図書館員や図書館支援者にとって貴重なツールとなっている。インターネット(http://ericir.syr.edu/Eric/)で無料で検索可能で,ベンダーからCD-ROMの購入も可能である。
また,ERICはERIC Digestsを出版している。ERIC digestsは,教育関係の最新のトピックに関する短い報告書で,インターネットで全文を見ることも可能である(http://www.ericfacility.net/databases/ERIC_Digests/index/)。
こうしたサービスを提供するERICは,教育者,研究者,図書館員,保護者,政策決定者および教育の分野に関心を持つ人々にとって非常に貴重な存在となっている。
今回,米国教育省は,ERICデータベースの効率化と全文テキストへのアクセスを目的に,ERIC改革草案を発表している。改革案発表の背景としては,クリアリングハウスとの契約が2003年12月で,EDRSとの契約が2004年6月に切れることがある。
改革案と現状との大きな違いは,クリアリングハウスを廃止し,ERICに関するすべての業務を,ひとつの契約者に任せることである。改革案によると契約者が行う作業は,おおまかに以下のようになる。
- 運営委員会とコンテンツ・エキスパートを組織,運営する。運営委員会は,12人程度の専門家から成り,パブリックフォーラムの提案,データベース採録誌についての提案,データベースとウェブサイトのモニター,雑誌のバックナンバーをデータベースに取り込む可能性の考慮といった作業を行う。コンテンツ・エキスパートは,クリアリングハウスで推薦された専門家3人から成り,データベース採録誌の選定,データベースに採録する非ジャーナルの情報源の特定,普及活動といった作業を行う。契約者は,運営委員会やコンテンツ・エキスパートらの意見を参考に,採録誌に関する草案を提出する。
- 全文テキストを,可能な限り無料でデータベースから入手できるようにする。無料で提供できない資料については,出版者やアーカイブへリンクをはる。
- データベースの書誌作成を行う。索引は自動的に付与し抄録は著者や出版者が作成したものを利用する。
- オンラインシステムの管理,運営を行う。
- 契約の移行がすみやかに行われるようにする。
また,この草案には,契約者が,何をいつまでに行うかのスケジュールが細かく記載されていて,契約者のパフォーマンスを評価する項目も記載されている。
この米国教育省の草案に対し,米国図書館協会(ALA)は,4つの点で疑問をなげかけている。
- データベースの書誌作成に際し,索引の自動付与,既存の抄録の利用,ERIC シソーラスの修正は,データベースの質と一貫性や検索の有効性を損なう。有効な索引付与は短期で習得できる技術ではなく,著者や出版者が作成する抄録は客観性に欠ける可能性がある。
- データベース採録誌の選定を行うことになる3人のコンテンツ・エキスパートに,今までクリアリングハウスが担当していた広範囲な主題分野をまかないきれるかという問題がある。データベースの質を落とさないためには,他の支援も必要だろう。
- 現在のクリアリングハウス機能の多くを縮小することは,特に情報普及の分野で損失である。現在,クリアリングハウスは,毎年15万以上の電子メールと電話に応答することにより,利用者に価値のある情報を提供している。クリアリングハウスの廃止は,ERIC Digestsをはじめとする出版の中止や,ERICクリアリングハウスが構築してきた情報普及活動の存続を危うくすることにつながる。
- 急に移行を行うのではなく,猶予期間を長くとることで,混乱を未然に防ぐべきである。また,出版者などベンダーへのリンクは,利用者や図書館員に混乱を招きがちであり注意を要する。
ちなみに,年報によると,2002年度のERICの予算は1,050万ドルで,内訳は,82%が16のクリアリングハウスに,17%がサポート機関に,1%が政府関係の出版その他に割り当てられている。クリアリングハウスの中では,23%がデータベースの構築に,18%がクリアリングハウスの運営に,17%がERICシステム内のプロジェクトに,15%がERIC Digests等の出版に,15%が電話や電子メールによる質問回答サービスに,10%がワークショップや展示会といった普及活動に,2%が会議等の旅費に当てられている。米国教育省の草案には,これからの予算規模と配分についての記載はない。
今後の予定としては,AskERICサイトと質問回答サービスを2003年12月19日に,ERICクリアリングハウスを2003年12月末で閉鎖する。これまで行ってきたERICデータベースの検索,教育関係会議のカレンダー,ERDSへのリンクは引き続き提供する。2004年1月からERICデータベースの更新はせず,2004年中には,新体制を確立し,データ更新を行う予定である。ERICのホームページには,ERICに関する一般的な質問を受ける通話料無料の電話番号が記されている。
主題情報部参考企画課:永村 恭代(ながむらやすよ)
Ref.
Educational Resources Information Center(ERIC).(online),available from < http://www.eric.ed.gov/ >,(accessed 2003-09-21).
ERIC Annual Report 2002.(online),available from < http://www.eric.ed.gov/resources/annual/index.html >,(accessed 2003-09-21).
Draft Statement of Work 01.(online),available from < http://www.eps.gov/spg/ED/OCFO/CPO/Reference%2DNumber%2DERIC2003/Attachments.html >,(accessed 2003-09-21).
ALA.Comments of the American Library Association on the U.S.Department of Education’s Draft Statement of Work for the Design of ERIC.2003,4p.(online),available from < http://www.ala.org/Template.cfm?Section=News&template=/ContentManagement/ContentDisplay.cfm&ContentID=30867 >,(accessed 2003-09-21).
ERIC Reauthorization News.(online),available from < http://www.lib.msu.edu/corby/education/doe.htm >,(accessed 2003-11-14).
永村恭代. 米国教育省によるERIC改革案. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1509