カレントアウェアネス
No.262 2001.06.20
CA1396
PAC TENとBig TENに見る法律図書館の課題
米国における大学の法律図書館でのサービスの現状について,1997〜98年,アリゾナ州立大学のアルコーン(M. Alcorn)氏により,有名大学とされるPAC TENとBig TEN(日本における東京六大学のように,スポーツ分野でも連携している大学の集まり)を対象に調査が行われた。そこで明らかになったことのうち,特に,専門知識を必要とするレファレンスサービスの体制と,電子化への対応という2点をここでは取りあげる。
レファレンスサービスは,原則としてどこの大学でも専任のレファレンス担当司書が行うが,多くの大学で資料集めなどのサポートを司書職でない図書館職員,学生(法学や図書館学専攻)などに頼っている。例えば,南カリフォルニア大学やオレゴン大学では法学部生に,ワシントン大学では法律図書館学の大学院生にアシスタントをしてもらっている。レファレンス回答そのものを他部門の司書が担当することがある,と回答した大学もいくつかあった。
米国では,多くの大学で24時間開館や週末の開館が実施されているが,夜間や週末のレファレンスへの対応は各大学で異なる。レファレンス担当司書がローテーションでカバーするという図書館が多いが,経験豊富な学生・大学院生が担当するところや,週末だけパートタイムの司書を雇うところもある。予算規模によってできる範囲は限られてくるが,開館中は常にレファレンスに対応できる体制をとっているのは評価されるべきであろう。
これらは結局,予算と職員数の問題である。潤沢な予算を持つ法律図書館は各部門に司書を配置することができ,担当の司書だけでレファレンスをこなすことができるし,週末のローテーションも可能である。予算が足りなければ多くの業務をかけもちしなければならず,週末はアルバイトに頼らざるを得ない。Big TENの中で他の部門の職員をレファレンス部門のカバーに回すと回答したオハイオとインディアナの2大学,PAC TENの中でレファレンス担当でない司書でカバーしていたアリゾナ州立とアリゾナの2大学は,学生1人あたりの図書館職員数も他大学に比べて少ない。職員数の不足はそのままレファレンスサービスの質の低下につながってしまうということである。
もう一つの最近の顕著な傾向は,インターネットやCD-ROMなどの電子的なツールの提供にともない,「電子サービス」担当司書を置く図書館が増えてきた,ということである。担当司書だけでなく,カウンターに入る司書は皆,各種の電子サービスのオリエンテーションを受けなければならなくなっているほどである。UCLAではコンピュータサービス部門に専任担当者およびアシスタントを置いている。南カリフォルニア大学においては法律図書館長がコンピュータ部門の長の補佐も兼ねるというユニークな組織編成をするなど,各図書館で組織編成上の工夫が凝らされている。
しかし,電子資料には完全な信頼が置けない,というところもある。心理的な不安感もあるし,現実として紙媒体の資料と同じようには使えない場合もある。例えば,日本における現行法令を扱ったCD-ROMは加除式の法令集を出版している2社がそれぞれ作成しているが,両方とも加除式資料のすべてのデータを含んでいるわけではない。また,総務省が2001年4月に法令データベースをインターネットで公開したが,条約や戦前の法令はカバーされていない。このように,電子資料には即時性と扱いやすさというメリットの反面,「落とし穴」も存在するわけで,我々は電子情報サービスの方法を訓練するだけでなく,紙資料と電子資料という媒体の違いを把握したうえでサービスを行うことを求められているわけである。
佐藤 令(さとうりょう)
Ref: Alcorn, M. S. A comprehensive overview and analysis of PAC TEN and Big TEN law libraries. Legal Ref Serv Q 17 (4) 69-92, 1999