カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20
CA1359
21世紀の専門図書館員の能力と資質
―図書館情報学プログラムの調査―
米国専門図書館協議会(SLA)は,1996年の『21世紀に向かって求められる専門図書館員の能力と資質』(以下『能力と資質』)の公表に続いて,図書館情報学プログラムの調査を1997年に実施した。調査の目的は,図書館情報学のカリキュラム作成のための基準を提供することと,各専門職協会が継続教育プログラムによって提供すべき能力と資質の範囲を確定することであった。図書館情報学教育協会(ALISE)および医学図書館協会(MLA)が諮問委員会として調査に参加した。調査票は各国の372の学校に送られた。内訳は,1997年米国図書館協会(ALA)公認の米国・カナダの学校(以下「認定校」)が56,残り316がWorld Guide to Library, Archive and Information Science Education第2版(1995年)に掲載されている学校(以下「掲載校」)だった。回答率は認定校75%,掲載校22%であった。最終報告は1998年に公表された。以下はその概要である。
調査は2つの部分からなり,第1は職業的能力に関するものであった。すなわち,学校のカリキュラムが,「21世紀の専門図書館」に対する準備を学生にさせているかどうかを評価することであった。『能力と資質』に示された11の職業的能力の構成要素を,情報資源,情報管理,情報アクセス,情報システム・技術,研究,情報政策という6つの「専門図書館員にとっての必須能力領域」に分類しておき,回答者に対し,自校の図書館情報学プログラムのカリキュラム講座をいずれかの分類に振り分け,その講座が「コア科目」もしくは「選択科目」であるかどうかを示すことを求めた。
掲載校の回答率が低く,学校間の格差も著しいため,認定校からの回答だけが分析対象とされた。合計で1,909の講座がリストアップされた。1校あたりの講座数の平均は45である。「必須能力領域」の分類では,情報資源(23%)が最も多く,情報管理(20%),情報アクセス(19%),情報システム・技術(18%)が続く。研究と情報政策の分野が最も低かった(各10%)。
提出された講座がコアまたは選択のどちらであるかについては,「必須能力領域」の合計では,17%の講座がコア科目だった。6つの領域ごとに見ると,情報アクセスの21%から情報資源の12%まで,幅がある。また,コアか選択かの違いはあるが,すべての学校が,それぞれの「必須能力領域」に少なくとも一つの講座を持っている。多くの学校がすべての領域でコア科目を提供しているが,情報システム・技術,研究,情報政策の3領域コアについては4分の1以上の学校が科目を設けていなかった。
調査の第2の部分は,自由記述の質問によるものであり,図書館情報学のプログラムがどのように個人的な能力の開発を促すか,『能力と資質』やMLAの『変化のための綱領』(以下『綱領』)に基づいてカリキュラムの改訂を計画したかどうか,どうすれば各専門職協会と図書館情報学のプログラムとが協力しあえるか,という3点が尋ねられた。掲載校と認定校の回答を比較したところ,重なるところもあったが,違いもあった。
まず,個人的な能力と資質を向上させるために取ったアプローチの例としては,次のようなものがあった。
- 既存の科目中へ,コミュニケーションスキルといった個人的な能力開発を取り入れている。(認定校・掲載校)
- 個人の能力に特に焦点を合わせた科目を提供している。(掲載校)
- 個人の能力に焦点を合わせた科目の代わりに,ワークショップまたは継続教育の講座を提供している。加えて,いくつかの学校では,学生に専門分野の学生団体や各種専門職団体に所属することを勧めている。(認定校)
また,カリキュラムの変更に対する『能力と資質』または『綱領』の影響度については,次のことがわかった。
- カリキュラムの改訂に『能力と資質』『綱領』を用いたのは認定校の方が多かった(掲載校には配布されていないケースが多い)。
- 掲載校のほとんどは,カリキュラム開発のために両文書を使わなかったけれども,将来的には多くの学校が使う計画を立てている。
さらに,各専門職協会のプログラムと図書館情報学プログラムとがカリキュラム内容の向上に向けて協力しあうための提案としては,次のようなものが挙げられた。
- 講義,ビデオ,会議(認定校)
- アクティブな協力,例えば共同の研究開発やカリキュラム委員会(認定校・掲載校)
- メンター制,インターン制(認定校・掲載校)
- 各専門職協会が学生,教員,図書館員を対象にセミナーや会議を実施する。(認定校・掲載校)
- 各専門職協会が世界中の学校に協力関係を拡張し,知的な財産を共有する。(掲載校)
わが国においても日本図書館協会『研修事業についての意見交換会』(1999年7月)で公共図書館と大学図書館の業務分析と研修プログラムの試案が示されるなど,専門職としての図書館員の在り方に関心が高まっている。SLAの『能力と資質』や今回の調査は,今後の議論の重要な素材となると考えられる。
大川 龍一(おおかわりゅういち)
Ref: Special Library Association et al. Competencies for Special Librarians of the 21st century: Library and Information Studies Program Survey, Final Report. [http://www.sla.org/research/competency/index.shtml] (last access 2000.3.13)
21世紀に向かって求められるスペシャルライブラリアンの能力と資質:エグゼクティブサマリー(翻訳) 専門図書館 (163) 11-16,1997