CA1322 – 米国公共図書館における成人向け文化行事の実態 / 久保宮恭子

カレントアウェアネス
No.249 2000.05.20


CA1322

米国公共図書館における成人向け文化行事の実態

アメリカ図書館協会(ALA)では,公共図書館が成人を対象に行っている文化行事について,1998年に全国的な調査を行った。このテーマでこれだけの規模の調査は,米国でも初めてのことである。

調査の対象となったのは,サービス人口が10万人以上のすべての公共図書館(461館)と,サービス人口が5,000人〜10万人で一定の基準以上の公共図書館である。1,500館に調査票を送付し,1,229館から有効な回答が寄せられた。回収率は81.9%であった。

調査票ではまず,成人を対象とした文化行事のうち9つを取り上げ,それぞれの実施状況を尋ねている。回答した図書館のうち82.6%の図書館では,なんらかの行事を実施していた。最も頻繁に行われているのは読書会で,61.4%の図書館で実施していた。以下に9つのサービスとその実施率を示す。

読書会61.4%
著者朗読会・講演会 59.3%
講習会43.8%
演奏会41.7%
演劇会 22.9%
読書を奨励する行事20.1%
映画上映会19.8%
文筆活動のワークショップ18.2%
ダンス公演14.2%

      
これら9つのサービスの他に,70.5%の図書館で展覧会を主催していた。

文字文化関連行事,すなわち読書会,講習会,著者朗読会・講演会,読書を奨励する行事,文筆活動のワークショップのなかでは,読書会や著者朗読会・講習会が頻繁に行われている。読書を奨励する行事を行っている図書館のうち75.0%の図書館では,毎年数週間の期間を設けるなど,年次行事として実施している。これらのサービスは安定した人気があり,特に読書会に対しては市民からの要望が強まっていると図書館では受け止めている。

調査ではついで,参加者,予算,協力体制について尋ねている。文化行事への参加者数は,年間で1万人以上という図書館(7.0%)がある一方,48.4%の図書館が500人以下となっている。

予算については,文化行事に対する独立した予算を設けている図書館は24.1%にすぎず,前年度と比較して増額したという図書館は33.6%で,55.5%の図書館では同額にとどまっている。また,図書館が単独の予算で文化行事を行っているのは7.7%にすぎず,ほとんどが外部の団体,例えば図書館友の会などから資金援助を受けている。資金援助以外にも,出演,宣伝,参加などのかたちで様々な外部団体と協力体制が組まれている。

調査ではさらに,回答者が図書館の文化的役割についてどのように考えているのか尋ねている。文化的役割は図書館の使命であるという回答が47.1%,そうでないという回答が45.3%であった。

さて,集計結果に対しては,地域,サービス人口,財政援助,調査票の回答者の地位などの要素によって,さらなる分析が加えられている。

まず地域という点から分析するために,回答館を北大西洋地域(360館 29.3%),五大湖・グレートプレーンズ地域(389館 31.7%),南東部地域(238館 19.4%),西部・南西部地域(242館 19.7%)の4つに分けた。文筆活動ワークショップと演劇会以外は,地域によって実施している図書館の割合に差異が認められた。読書を奨励する行事の実施率では,五大湖・グレートプレーンズ地域の41.3%に対して,西部・南西部地域15.2%,北大西洋地域8.2%,南東部地域8.1%と大きな違いが見られた。

続いてサービス人口,財政援助という点から分析が加えられた。図書館がどの文化行事を行うかを決定する際の重要な要素は,サービス人口ではなく,むしろ予算である。以下に調査対象館をサービス人口一人当たりの予算別に分類した時に,10ドル未満の最低額のグループ(165館 13.4%)と50ドル以上の最高額のグループ(89館 7.2%)のサービスの実施率を示す。

 10ドル未満50ドル以上
読書会36.6%82.0%
文筆活動のワークショップ9.9%36.0%
著者朗読会・講演会47.5%73.9%
読書を奨励する行事13.0%28.1%
講習会26.1%59.6%
演奏会23.0%69.7%
映画上映会9.1%39.3%
演劇会8.5%33.7%
ダンス公演6.7%27.0%

図書館における文化行事への関わりの度合いは,その図書館での文化行事の位置づけと関連がある。文化行事を図書館の行うべき使命と考えている図書館では,そう考えない図書館よりも,様々なサービスを行っている。また,管理職よりも一般職員の方が,文化行事を図書館の使命と考えている割合が高い。

さらに,地域における文化団体の存在が,図書館の文化行事に反映されている。レベルの高い文化団体が存在している場合,図書館でも同様のレベルのサービスを提供している。

文化行事は,「場」としての図書館の役割を特徴づけるものだと考えられるが,実践にあたっては,改善される余地が残っていることもわかった。

こうした文化行事のユニークな成功例のひとつをここで紹介したい。

サンディエゴ公共図書館のパシフィックビーチ分館では,地域の芸術団体の協力を得て,展覧会を行っている。1997年の開館以来,美術館やギャラリーを手本に展覧会を行い,サンディエゴ市内だけでなく南カリフォルニア一帯から数千人もの人々が訪れている。

開館に際して,サンディエゴ在住の国際的な芸術家スキャンガ(Italo Scanga)の展覧会を行った。スキャンガはサンディエゴに22年間在住し,芸術活動と指導を行なってきたが,彼の作品がニューヨークなどの主要な美術館に展示され,国際的に高く評価されているにもかかわらず,芸術家や学術的なサークルにしか知られていなかった。スキャンガはこの企画が持ち込まれた時に,「図書館を支援したり,自分の絵が図書館に展示されたりすると,自分がコミュニティを構成していることを実感できる。私はここに住んでいるのだから,そうすることが私の義務だと感じる。そうすることで,満足感を覚える。私達には,文化の大切さを本当に認めている指導者が必要だ」と語っている。

スキャンガは,サンディエゴに移住してくる前から既に有名であったが,サンディエゴには数千人の有名無名の芸術家がいる。彼らを図書館と結びつけることを意図して,パシフィックビーチ分館では,サンディエゴ在住の芸術家達の展覧会を企画し続けてきた。2000年1〜2月には,「近ミレニアムの画家達」と題して,サンディエゴカウンティの15人ほどの優れた画家達の作品の展覧会を企画した。展覧会自体だけではなく,そのオープニングレセプションは,芸術家や収集家,慈善家,市民,学生など400名ほどが出席する盛大なものである。作品が売買されると,芸術家によっては2,000〜1万ドルの売上がある。その約15%の金額が図書館に寄付される。展覧会に絡めて,作品を展示している芸術家による講演会など文化的なイベントも行われている。

サンディエゴにおいては,図書館が地域の文化の中心になっているといえよう。

久保宮 恭子(くぼみやきょうこ)

Ref: American Library Association Public Programs Office. Cultural programs for adults in public libraries: a survey report. [http://www.ala.org/publicprograms/products.html#survey](last update 1999. 9.10) (last access 1999. 10. 12)
Lugo, Mark-Elliott. Art for libraries' sake. Am Libr 30(6) 90-94, 1999