CA1218 – 備えあれば憂いなし? / 村上浩介

カレントアウェアネス
No.230 1998.10.20


CA1218

備えあれば憂いなし?

1998年4月28日,アメリカ・シカゴ郊外の図書館で,信じられないできごとが起こった。

事のおこりは,コンピュータの障害によって,シカゴ北部・北西部の24図書館が共有する貸出データファイルが利用できなくなったことにある。24図書館が参加する共同コンピュータ・サービス(CCS)はすぐに,バックアップテープからシステムを復旧しようと試みた。ところが,事もあろうに,テープドライブの故障によってテープが縮んでしまい,最新のデータが復旧できなかったのである。そのため,参加館は個々の図書の利用状況,またその利用者が特定できなくなってしまった。

手書きの貸出記録があれば,それを元に利用記録を入力し直すこともできよう。これだけでも大変な作業のように思われる。何といってもCCSの登録者は70万人を越えるのだから。しかし,「各図書館には1,2年分の利用者記録しかなく,あやうく他の多くの利用者を再登録しなければならないところだったのです」とは,CCSの会長で,ラウンドレイク地域公共図書館長でもあるプファンクッヒェ(Barbara Pfannkuche)氏の弁。数十万人のデータを登録し直すという最悪の事態を迎えるところだったのである。

しかし幸いにも,利用のあまり多くない時期であったので,バックアップ用の貸出システムで対処しているうちにシステムの復旧のメドが立った。CCSが参加しているイリノイ州北部郊外図書館システム(NSLS)のオンライン・データベースから,データを復旧できたのである。

CCSのシステムは,事故の約1か月後,5月26日に新しいものと入れ替える予定だった。新システムは,データの入った媒体と,システム自体をそれぞれ二重化するものである。「あと1か月早く入れ替えていたら……」システム管理者のシャーマン(Richard Shurman)氏は残念がる。同時に「もう少しで,バックアップシステムもちゃんと確認しておかないと大変なことになる,という教訓を提供する見本になるところだった。そうならなくてよかった」と彼は正直な胸の内を明かした。備えあっても憂いあり?である。

村上 浩介(むらかみこうすけ)

Ref: Eberhart, George M. Computer crash strikes suburban Chicago libraries. Am Libr 29 (6) 24, 1998