イタリアにおける日本語教育・日本研究の現状については,国際交流基金が数年おきに行っている機関調査報告や,AISTUGIA(イタリア日本研究協会)の出版物などから概要を把握することができるが,1980年代後半の,ブームともいえる急激な増加現象は一応落ち着いたとはいえ,日本語学習者の…
カレントアウェアネス
No.227 1998.07.20
CA1202
イタリアにおける日本研究文献所蔵図書館の現状
−日本関係情報の現状(8)−
イタリアにおける日本語教育・日本研究の現状については,国際交流基金が数年おきに行っている機関調査報告や,AISTUGIA(イタリア日本研究協会)の出版物などから概要を把握することができるが,1980年代後半の,ブームともいえる急激な増加現象は一応落ち着いたとはいえ,日本語学習者の数は現在も少しづつではあるが増え続けている。1997年現在,日本語講座を設けている高等教育機関は14大学(16講座),中等教育機関が2校,学校教育以外の機関が8機関あり,日本語学習者の数は2,400〜2,500人程度であると推定される。一方で,これらの日本語学習者や学生に対応するべき図書館(主として大学図書館)がどのような日本関係資料を所蔵し,日本語文献をどのように整理し,外部の利用者にたいしてどのようなサービスを行っているかということは今まではっきりと把握されたことはなかった。1995年に国際交流基金が,図書館,博物館をふくむ日本研究機関調査をおこなったのがおそらく初めてではないかと思うが,それに質問事項及び送付先を追加する形で,1997年6月に日本語講座のある大学を中心に学術機関など40機関にアンケートを送付し,その内30機関から回答を得た。なかでも大学図書館は15館全てから回答を得ることができたので,その結果から簡単に現状をまとめてみたいと思う。
10,000冊以上の日本関係文献を所蔵しているのは,日本研究の最も古い伝統を持ち,今日もなおイタリアの日本研究の主な中心地であるヴェネツィア大学日本学研究図書館,ナポリ東洋大学アジア学図書館の2館だけであった。それぞれ12,000冊の日本関係蔵書を有している。日本語専攻学生の数がイタリアで三番目に多いローマ“ラ・サピエンツァ”大学が5,400冊,ウルバニアーナ教皇大学が宗教関係の文献を中心に4,800冊とそれに続いている。その他の大学のほとんどが,2,000冊未満の蔵書しかない。
イタリアの大学のほとんどが国立であり,国家公務員試験を通った者が公務員として配属されるため,日本語のわかる司書のいる図書館はない。従って,相当数の和書を所蔵する図書館でも,ローマ字読みのみでカタログされているが,読み方は日本語教授の補助または日本語学科の学生のアルバイトに頼らざるを得ず,そのために整理の遅延が問題になっているところも多いようである。
一方コンピュータの導入状況に関しては,未導入と答えた図書館は一カ所のみで,他はすべて蔵書整理にコンピュータを導入している。その内,完全にコンピュータを使用したカタログのみの図書館は四カ所で,それ以外はカードとの併用である。イタリアの日本研究者の個人使用レベルでは,日本語対応の容易なマッキントッシュがよく利用されているが,図書館で使用されているのは,100%DOSであった。
インターネットの利用状況については,15館中13館が既に利用しており,その内8館がSBN(Servizio Bibliotecario Nazionale:全国図書館ネットワーク)を通して,あるいは独自に,蔵書の書誌データを公開している。将来的にもインターネットによる書誌データ公開を考えていないと答えた図書館は一カ所のみで,それ以外は1,2年内に書誌データを公開予定と答えている。なお,大学図書館の大部分が加入しているSBNとは,各地域,大学ごとに分けられた図書館グループのシステムを,ICCU(Instituto Centrale per il Catalogo Unico delle Biblioteche Italiane e per le Informazioni Bibliografiche:図書館総合目録・書誌情報センター)が開発・管理する中央の総合目録システム(Indice)に接続し,共同目録システムを兼ねた大規模な総合目録として機能するものである。1992年から本格的に稼働を始め,1997年現在,34地域の700機関を網羅している。
また,逐次刊行物に関しては,1970年代にCNR(Consiglio Nazionale delle Richerche:イタリア学術会議)のイニシアティブで生まれた『全国逐次刊行物所蔵目録』を母体とするものに,新規登録の200館(主として大学図書館)を加え,1988年よりCIB(Centro Inter-Bibliotecario Universita di Bologna:ボローニャ大学図書館連絡センター)がOn-line公開を開始した。現在2,162のイタリアの図書館の逐次刊行物の所在情報が検索でき,また加入図書館から直接On-lineでデータ修正をすることが可能である。
今回アンケートに回答を寄せた日本語講座を持つ大学図書館のうち,日本関係資料を専門に収集しているのは,ヴェネツィア大学日本語日本文学研究図書館のみである。その他は,東洋学科図書館または経済学部図書館などで日本関係資料はそのコレクションの一部にすぎない。また日本語を解する司書のいないイタリアでは,コンピュータでの日本文字表記の問題点や情報交換のためのネットワークの構築は,あまり現実的ではないと思われる。しかし,今回のアンケートの対象となった図書館のほとんどが既にコンピュータを導入し,インターネットによる自館OPACの公開を予定していること,80%近くが条件付きではあるがコピーの郵送サービスを実施していることなどを考えると,状況はそれほど悲観的ではないと思われる。ただし,当日本文化会館図書館の蔵書27,000冊を入れてもイタリア国内における日本関係資料の絶対数の不足は否めない。インターネットの普及が,ヨーロッパという単位での日本資料へのアプローチを可能にしてくれることを期待したい。
ローマ日本文化会館図書館:加治 以久子(かじいくこ)
Ref:海外の日本語教育の現状:日本語教育機関調査1993年:ヨーロッパ 国際交流基金日本語国際センター 1995. 2v.
http://opac.sbn.it/(last access 1998.6.25)
http://liber.cib.unibq.it (last access 1998.6.23)