CA1077 – 商業ドキュメントデリバリーサービスと大学図書館 / 飯倉忍

カレントアウェアネス
No.204 1996.08.20


CA1077

商業ドキュメントデリバリーサービスと大学図書館

近年,雑誌の購入価格は高騰を続けているのに対して,図書館の資料費は伸び悩み,結果として研究者が必要とする雑誌の購入が次第に困難になってきている。そのため資料費の高騰についていけない図書館では,より優れた図書館間貸出し(ILL)サービスやドキュメントデリバリーサービスへの要求が高まってきている。

テネシー大学(UTK)図書館でもOCLCやRLINによるILLサービスに加えて,93年から新たにDOCLINEによるサービス(CA976参照)を始めた。現在では雑誌論文に関するILLの25パーセントがDOCLINEでまかなわれている。

このような状況のなか,近年幾つかの商業ベースのドキュメントサプライヤーが目次情報サービスに連動する形で,記事本文のドキュメントデリバリーを行うというサービスを始めるようになってきた。

予算の都合上打ち切らざるを得なくなった雑誌の,より良いアクセスの方法を考えていたUTKのスタッフは,大学図書館という環境下でこのような商業ベースのドキュメントデリバリーサービスがどの程度有効であるのか調査を行った。以下,この調査と評価に関するManciniの報告について紹介してみたい。

調査対象を選ぶ際には,多くのタイトルを含んでいること,相応の評価を得ていること,学際的であること,この調査のために支払う預託金(deposit account)が,過大ではないことなどを考慮し,以下の4つのサプライヤーを選んだ。すなわち,UMI,UnCover(CA946参照),Faxon Finder(CA812参照),そしてTGAである。この4つのうち,UnCoverとFaxonについては既出の記事を参照してもらうことにして,その他の2つについてここで簡単に紹介したい。

UMI社の雑誌記事提供サービスはUMI Article Clearinghouseによって始められ,現在,目次情報を提供している対象は,社会科学から科学技術までほぼ全ての分野にわたる雑誌の他,会議録,新聞等1万5千タイトルに及ぶ。依頼はファックスによる他,OCLCやBRS,Dialog等からもでき,入手はファックスのほか,郵送によっても可能である。もう一つのTGA(The Genuine Article)はISI社によって行われている記事提供サービスで,7千誌ほどが現在収録対象誌となっている。また,これら以外に3,500誌ほどの過去の雑誌の目次情報について遡及入力を行っており,提供される記事の範囲がカレント分以外にも拡大されつつある。また,TGAは原則としてtearsheet方式,即ち,直接雑誌の記事部分そのものを切り取って提供するという方法をとっており,それが不可能な場合のみフォトコピーで提供するという方法をとる。記事の依頼は郵便,電話,ファックスなどの他,OCLC,BRS,Dialogなどからでもできるようになっている。

ところで,当初この調査を行うにあたり,商業用サプライヤーに対して依頼する記事は,その資料がUTKに存在しない,その資料が電子フルテキストデータベース経由では入手できない,その資料がDOCLINEを通じては入手できない,といったようなものに限定するという方針を立てていた。しかし,この方針では,充分な評価を行うのに必要な件数が得られない可能性が出てきた。それは商業サプライヤーはほとんどの場合,最近の数年間のカレント分をサービス対象としているため,それより前の記事が入手できないからである。そこで幾つかの医学関係の雑誌記事については,DOCLINEで入手できるかどうかの判断をせずに,直接商業サプライヤーに依頼することにした。

評価項目は,記事の入手成功率,費用,入手までの時間,スタッフの手間,アクセスの方法,品質である。また,調査の期間は1994年9月から12月までの3カ月である。

記事の入手成功率

それぞれのサプライヤーは自分たちが提供しているタイトルのリストを作成しており,これで採録対象誌になっていないものを依頼しないようにチェックしつつ依頼を行った。しかし全体で175件の依頼のうち,入手できたものは135件,依頼の全数の76%余りであった。これは,リストにはあるが既に採録中止になっていたものがあったこと,出版社がコピーを禁止しているものがあったことなどがその理由である。また,入手確率が最も高かったものは,UMIで96%,逆に最も低かったものはFaxonの35%であった。この違いは結局UTKが必要とした記事がどのサプライヤーに最も多くカバーされていたかということである。実際に入手できなかった資料についてその主題別にみてみると,ビジネス関係の資料は27パーセントであったが,社会科学・教育関係となると41%が入手できなかった。商業サービスの場合,当然ビジネスとして成立するような情報が主となるため,社会科学のような記事はどうしても範囲外になってしまう。結果として主題にある程度の偏りがでてしまうことになる。

費用

UTKが行っているサービスでは,100以上の図書館と相互に協定を結び,その図書館の間では互いの相互貸借や文献依頼等については,料金をとらないようにするなど工夫している。商業サプライヤーの場合はこうはいかないので,それぞれの料金を検討しなくてはならない。UMIでは基本的に定額制を導入しているため,どのような記事を依頼しても金額に差がでないが,他は,基本料金に出版社が定めた著作権料を上乗せした形で料金が設定される。この金額が結構馬鹿にならない額となり,中には著作権料として24ドルを請求された例もある。この著作権料の問題はサプライヤーを選択するときに注意すべき点となるだろう。また,FaxonとUnCoverはファックスのみ,UMIとTGAはファックスの他に,速達,通常郵便が選べるようになっており,UMIについては郵送によるほうが安くなっている。総じて,急ぎの場合には料金は割高になると考えてよい。

入手までの時間

UTKのILLでは実際に資料が到着するまで,平均2週間かかっている。サプライヤーに依頼した場合ファックスによる提供ができれば,平均して1ないし3日,早ければ依頼した当日には送られてくる。また郵便でも平均して5ないし6日であり,極めて早く手にすることができるようになっている。

スタッフの手間

ILLの場合は既に作業手順やスタッフごとに役割分担が定められているためスムーズな処理ができるが,この調査に選んだサプライヤーに依頼する場合,手順や方法が同一ではないため,スムーズな処理ができなかった。また,UMIとTGAについては,OCLCで所蔵の状況が把握できるようになっていたが,他の2社は採録対象としている雑誌名を調査するのにそれぞれの組織が出している冊子体のタイトルリストを見る必要があり,OCLCの検索と比べて手間のかかるものとなった。OCLCに入っていないところと契約を行う時は,ILLの作業手順やスタッフの役割分担を改めて考える必要がある。

アクセス

UMIとTGAとはファックスによる依頼を認めている。また,OCLCのFirst SearchやDialogからでも受け付けてくれる。UnCoverはInternetを通じて無料の検索ができるようになっている。

品質

ファックスで送られたものに対してのいわば“写りの良さ”という点では,どこも同じであり,まあまあ満足のいくものであるが,依頼者からクレームが来た唯一の例は本文中の写真の写りの悪さであった。しかし,これもどのサービスでも同じようなものであった。

商業ドキュメントサプライヤーは総じてILLよりは早いが,常にそうであるという保証はない。もっとも,このサービス調査の結果をもとにILLのサービス向上を訴えることは不可能ではない。また,提供される記事について,採録対象に偏りがあり,全ての要求には対応できないということ,最近数年間のカレント分に限定されてしまうという点も注意しておく必要がある。さらに,著作権の問題もある。出版者が複写を認めていない場合もあるし,また認めているとしても著作権料が高額になる場合がある。こういった問題は商業サプライヤーといえども簡単には解決できない。

その他に,24時間ファックスサービスという約束が、実際には確実になされたものではなかったという点にも注意する必要がある。常に依頼した当日に記事が届くという訳ではなかった。今回の調査では,大体1ないし3日かかっている。

結論として,Manciniは,商業サプライヤーが今までのILLサービスに完全にとって代わるというところまでは無理であるが,充分に補完できるサービスであり,このようなサプライヤーを利用するということによってある特定の図書館に負担をかけずに,複数の入手方法を確保できるという点においては充分意味があるとしている。

日本でも近年このようなドキュメントサプライヤーと契約する図書館があらわれ始めている。どのような観点にたってどこを選択するかは図書館の財政上の問題とも絡むため,慎重に検討する必要があるだろう。勿論,この報告はアメリカでの事情であり,1994年の調査であること,更にテネシー大学図書館単館での調査であるという制限はある。ILLでもここでの値よりははるかに短い日数で届くというところもある。また,この1,2年の変化も大きい。しかし,ここであげているような評価項目自体については,充分日本でも役に立つのではないだろうか。

飯倉 忍(いいくらしのぶ)

Ref: Mancini, Alice Duhon. Evaluating commercial document suppliers: improving access to current journal literature. C&RL 57 (2) 123-131, 1996
Stebelman, Scott. Analysis of retrieval performance in four cross-disciplinary databeses. C&RL 55 (6) 562-567. 1994
Pack, Thoma. UMI-history in the making Library Hi Tech 12 (3) 91-100, 1994