CA1019 – 高齢化社会の図書館サービスとは / 飯倉忍

カレントアウェアネス
No.192 1995.08.20


CA1019

高齢化社会の図書館サービスとは

厚生省の推計によると,西暦2020年には国民の4人に1人が65歳以上の超高齢化時代が到来するという。そしてそのような超高齢化は日本に限ったことではない。そのような時代に対して図書館のサービスの在り方はどうあるべきなのだろうか。

アラン M. クレーマン(Allan M. Kleiman)は,高齢者サービスの在り方を見直す必要があるのではないかという。今まで行われてきた高齢者サービス,即ち,拡大図書の収集・提供や,在宅あるいは施設に暮らす老人向けの配本サービスなどはサービスとして不十分であり,障害者サービスの焼き直しに過ぎない。彼の提言によると,これからは高齢者の自主性を高めるための,あるいは生涯学習センターとしての高度な知識や先進的な技術を提供するようなサービスが必要になる。

これからの高齢者は高校卒業以上の学歴を持つ者が多数を占めるようになるという視点は重要である。今までの娯楽や趣味という程度を越えた,高い知識や技術を図書館に求めてくる,という点は十分に注意しておかなくてはならない。

このため,図書館は今までの印刷メディアだけではなく,CD-ROMやオンラインデータベースの提供,さらにはインターネットの利用といった電子ツールの提供も重要なサービスになってくる。高齢者は経済的,社会的に弱者であるのみならず,情報の面でも弱者になりやすい。その点でも図書館は彼らに対して重要な責任を負っているはずである。

しかし残念なことに,そのような未来に至る必要なビジョンが図書館人には欠けている。他の高齢者向けの団体が行う先進的なサービスに関心を持ち,いかに図書館が高齢者の要求の変化を理解していないかに気づく必要がある。

一方,今までにも先進的なサービスを提供してきた図書館はある。良く知られているブルックリン公共図書館のSAGEプログラムのように,お年寄り達が補佐役となって,図書館での高齢者のための催し物の計画を立てたりするもの(注)や,ロサンゼルス公共図書館はお年寄り達による鍵っ子のためのお話会や工作教室を主催するなど,高齢者の積極的な社会参加を促すような試みが行われている。

しかし,いずれにせよ,現在活動的な余暇を過ごし,情報ハイウェー体験をしている働き盛りが高齢者となるとき,図書館も今までとは違う新しいサービスを提供できなければ,年老いた後も彼らを図書館につなぎ止めるのは難しくなるだろう。

残念なことに,現在の図書館学校では,こういった新しい高齢者向きのサービスというのは学科目として用意されていない。未だに高齢者は障害者と同じとみなされ,特別なサービスの一部としか扱われていない。学科課程の中に図書館情報学と共に,老人学や社会人教育といったものも含めるべきであろう。

21世紀に向けて,図書館が高齢者サービスでの指導的な役割を果たしたければ,幾つもの創造的な可能性を検討していく必要がある。

そのような中,アメリカ図書館協会の冬季大会では,5月にワシントンで開かれる「高齢者に関するホワイトハウス会議」(WHCoA)のための予備会議が開催され,ここでWHCoAで論議すべき高齢者に対する図書館サービスに関して,財源や通信回線料金の優遇措置,複数機関の協力などの案が示された。

未来に向けて図書館界は,生涯学習,高齢化時代の到来,新技術の導入などを見据えた新しい展望を示していくことが大切ではないだろうか。

飯倉 忍(いいくらしのぶ)

(注) ブルックリン公共図書館のSAGEプログラムについては,Libr J 108 (6) 556-557, 1983に掲載されているので詳細はそちらを参照されたい。
Ref: Kleiman, Allan M. The aging agenda. Libr J 120 (7) 32-34, 1995
Library services for the golden years. Libr J 120 (5) 16-22, 1995